ビジネス解読

高級旅館をM&Aした写真館 中小事業主救うネット仲介 (2/2ページ)

 新型コロナの流行で写真館も宿泊業も「不要不急のビジネス」との印象を持たれたがちだが、小野社長は「旅行などの非日常の体験へのニーズはあり、必ず人は戻ってくる」と話す。小野社長の新ビジネスへの挑戦は始まったばかりだ。

 民間調査会社の東京商工リサーチによると、令和2年に全国で休廃業や解散した企業は前年比14・6%増の4万9698件で、これまで最多だった平成30年(4万6724件)を抜き、12年の調査開始以降、最多となった。コロナ禍での政府や自治体、金融機関による資金繰り支援策が功を奏し、令和2年の企業倒産が2年ぶりに減少したのとは対照的だ。

 中小企業の廃業が増える原因の一つが後継者不在。中小企業庁の推計によると、7年に70歳を超える中小企業経営者は245万人に達するが、その約半数の127万人について後継者が決まっていないという。

 中小企業の事業承継はこれまで親族内承継がほとんどだったが、少子高齢化でそれすら難しく、小野写真館のようなM&Aなどによる親族外承継が増えている。

 M&A仲介サービスもあるが、企業価値の算定が難しい中小企業にとっては仲介手数料が割高になりがち。そこで注目されるのが、インターネットを活用したM&A仲介サービス。小野写真館の小野社長が利用したビジョナル・インキュベーションのほかにも、トランビ(東京都港区)やバトンズ(同千代田区)などがある。いずれもサイトへの情報の掲載は無料。成果報酬制で、成約後に一定の手数料を支払う。

 また各地の商工会議所などに設けられている「事業引継ぎ支援センター」は、国から委託を受ける形で中小企業経営者からの事業承継の相談に無料で応じている。

 中小企業庁の試算によると、このまま後継者難の問題に手を打たなければ、7年までの10年間累計(既に廃業した企業分も含む)で約650万人の雇用と約22兆円の国内総生産(GDP)が失われるという。

 東京や大阪などの大都市圏の商店街でも、後継者がいないことで閉店を余儀なくされ、シャッターを降ろしたままの店が目立つ。写真館に限らず、飲食や小売りなどの個人商店や町工場は地域の雇用やコミュニティーを支える重要なインフラ。そうしたインフラを守る上でも、中小企業の円滑な事業承継は重要だ。(松村信仁)

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