新型コロナウイルスの感染拡大に伴う地価の下落が、実体経済に対してどのような悪影響を与えるのか。政府は慎重に見極めてもらいたい。
国土交通省がまとめた今年1月1日時点の公示地価は、全用途の全国平均で6年ぶりに下落に転じた。ここ数年の訪日客の急増で、三大都市圏の商業地を中心に地価は上昇していたが、突然のコロナ禍で観光需要が蒸発し、一転して地価は値下がりした。
何より懸念されるのは、地価下落で日本経済が再びデフレに逆戻りする事態である。企業や個人が所有する土地の評価額が下がれば、資産価値の下落を通じて物価が下がり続けるデフレが再燃しかねないからだ。
新型コロナの影響で企業業績も厳しさを増している。地価の下落が日本経済に負の連鎖を招かないような対処が不可欠だ。
コロナ禍による訪日客激減や外出自粛の影響でホテルや飲食店、小売店の業績が悪化し、商業・工業・住宅の全用途平均(全国)は前年比で0.5%のマイナスと6年ぶりに下落を記録した。東京、大阪、名古屋の三大都市圏は住宅地、商業地とも下落した。
なかでも訪日客需要で地価が値上がりしていた大阪地区の商業地の下落幅は大きい。大阪・ミナミの繁華街、道頓堀1丁目は前年比マイナス28%と全国の商業地の中で最大の下落となった。東京・銀座でも2ケタの値下がりを記録した地点があった。
コロナ禍の収束が見えず、観光需要の回復は当面見込めない。都市部の地価下落がどこまで広がるかの見極めが重要だ。政府は投機的な取引による局地的なバブルだけでなく、急激な地価下落に対する警戒も怠ってはならない。
テレワーク(在宅勤務)の拡大も地価に影響を与えている。東京都区内の住宅地の多くが下落に転じたが、神奈川、埼玉、千葉では東京に隣接する地域の地価が堅調だった。在宅勤務によって都心で暮らす必要がなくなった人が郊外に移動しているという。
地方では札幌、仙台、広島、福岡の中核4市で上昇基調を維持した。周辺地域から人口が流入する動きが続き、新型コロナの影響はまだ顕在化していないようだ。ただ、こうした地域の地価は、地方全体の地価動向を左右するだけに注視が欠かせない。