米中外交トップによるアラスカ会談は、バイデン政権の下に結集する自由民主主義勢力と、国際秩序の現状変更を目指す権威主義体制の中国との角逐の火ぶたを切るものとなった。
また、ブリンケン国務長官とサリバン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)にとっては、報道陣の前で米国を厳しく批判する「スタンドプレー」を展開する一方で「友好協力」を執拗(しつよう)に働きかける老獪(ろうかい)な中国外交に対する「胆力」が試される展開となった。
元米政府高官によると、中国は米国で政権が交代すると、新政権の当局者らとの初会合の場で「中国の核心的利益」などに関する一方的な主張を長時間にわたって「説教」するのが恒例になっているという。
中国が今回の会談で米国の社会的分断や黒人差別などの問題をやり玉に上げた手法も、新疆ウイグル自治区での人権侵害や香港での民主派弾圧を正当化する常套(じょうとう)手段として過去にも用いられてきた。
だが、米国をはじめとする民主体制の国々と中国との決定的な違いは、民主体制では国民の基本的権利に関わる問題を封殺したりせず、公の取り組みを通じて解決を図る健全性を担保していることだ。
ブリンケン氏は初日の会議で楊氏による一連の米国批判に「米国は完璧でないし過ちも犯すが、公平かつ透明性をもって困難に立ち向かい、国家として強くなり、向上し、団結を固めてきた」と反論した。
米国が中国の「核心的利益」に介入するのを阻止した、と中国の国内向けにアピールすることを狙った楊氏らによる会談での「過剰演技」は、逆に中国共産党指導部の独善的な発想を国際社会に印象づけた。
対中政策は、党派対立が激しさを増す米国で、超党派の世論の合意が形成されている数少ない分野だ。
ギャラップ社が今月16日に発表した全米世論調査では「米国の最大の敵はどの国か」との質問に50%が中国と答え、2位のロシア26%、3位の北朝鮮9%を大きく引き離した。
また、50%が中国を「世界一の経済大国」であるとし、63%が中国の経済力を「死活的脅威」と見なしていることも分かった。
それだけにバイデン政権は、中国からの「対立回避」や「協力拡大」の甘言に惑わされることなく、中国に決然と態度変更を求めていく必要がある。
バイデン政権はこの1カ月、日米豪印の4カ国による初のオンライン首脳会合や、ブリンケン氏とオースティン国防長官による日韓歴訪などを通じ、少なくとも言葉の上ではトランプ前政権を上回る対中強硬姿勢を打ち出すことに成功した。
オバマ元政権の人脈が色濃いバイデン政権は、国内外でオバマ時代の「対中融和」への回帰が懸念されてきた。米政権による一連の取り組みは、そうした懸念を一定程度払拭したが、その真価は今後の対中戦略の遂行にあたり「言行一致」を貫徹できるか否かで問われることになる。(ワシントン支局長 黒瀬悦成)