大阪の統合型リゾート施設(IR)計画が揺らいでいる。府市が2月、IR事業者に求める条件を示した実施方針の修正案で、全面開業時期は白紙、展示場の規模は当初案の5分の1も可とするなど大幅に「下方修正」したためだ。誤算が続いていたところにコロナ禍がのしかかり、方針転換を余儀なくされた。府市が掲げる「世界最高水準のIR」実現は見通しにくくなってきた。
「開業は2020年代後半を想定」
「施設の整備は段階的に行うことも可能」
修正案では、19年の当初案で25年の大阪・関西万博前としていた開業時期は先送りし、全面開業の時期は明示しなかった。
また「10万平方メートル以上を確保」としていた展示場施設は「2万平方メートル以上」に引き下げ。関西最大の展示場「インテックス大阪」(約7万平方メートル)に及ばない規模だ。「開業時には」との条件を付け、将来的な拡張は求めたが、経済状況次第で見直しも可能としている。
国際会議場運営の専門家は「拡張するためには、着工時点で関連する基礎工事が必要になる。(10万平方メートルは)義務ではないのに、そこまでする事業者があるだろうか」と疑問を示す。
大阪商工会議所の尾崎裕会頭は「最初に考えていたものと違うものになるのでは」と懸念する。
参入事業体へ「配慮」
大幅な修正がされた背景として、関西財界の関係者らは大阪のIRへ唯一、参入を表明している米MGMリゾーツ・インターナショナルとオリックスの連合事業体に対する「配慮」を指摘する。
コロナ禍はIR事業者も直撃した。米ラスベガス・サンズは日本市場参入の見送りを表明。MGMも、20年の売上高は前期比6割減に落ち込んだ。
府市は、IRと万博の会場になる大阪湾の人工島、夢洲(ゆめしま)への地下鉄延伸費用として約200億円の負担もIR事業者に求めている。仮にMGM・オリックスが撤退することになれば、万博にも影響しかねない。
ある財界関係者は「MGM・オリックスが心変わりしないよう、配慮せざるを得ない状況だ」と話す。
当初、国内のIR誘致競争をリードしてきた大阪には、世界の大手各社が1兆円規模の巨額投資計画とともに参入を表明した。
ただ、19年8月に横浜市が名乗りを上げると「大阪離れ」が相次ぐ。結局、翌年2月の書類審査に応募したのはMGM・オリックスのみだった。事業者と府市との交渉では「圧倒的に事業者優位になった」と指摘される。
月内にも追加募集
今回の修正案に伴い、府市は3月中にもIR事業者を追加募集する。
当初、大阪IRへの参入に強い関心を示していたゲンティン・シンガポール関係者は取材に「何もコメントすることはない」。香港のギャラクシー・エンターテインメント・グループ日本法人のテッド・チャン最高執行責任者は「募集要件がどのように変更されたかには関心がある」と含みももたせた。
ただ、募集期間は2週間と短く「今さら競争を仕掛ける企業があるだろうか」(IR事業者)との見方が強い。
MGMは「夏までには事業内容を提案するだろう」(ホーンバックル最高経営責任者)と引き続き大阪に意欲を示している。
一方、気になる動きもある。MGMは1月、オンラインカジノを共同運営する英エンテインに対し110億ドル(約1兆2000億円)での買収を提案した。
結局交渉は物別れに終わったが、IRの情報サイトを運営するキャピタル&イノベーションの小池隆由(たかよし)社長は「買収が実現していた場合、大阪への進出意欲を維持していただろうか」とMGMの真意をいぶかる。
また、IRの柱となるカジノに関し、オンライン事業にも軸足を移そうとしていることも浮き彫りになった。場所が不要なオンラインカジノなら大阪参入だけにこだわる必要はない。9月に見込まれる事業者選定まで、関係者のせめぎ合いが続きそうだ。(黒川信雄)