小泉進次郎環境相が温室効果ガスの排出に課金することで排出抑制につなげる「カーボンプライシング(CP)」の導入に向け、奔走している。菅義偉(すが・よしひで)首相が掲げる「脱炭素社会の実現」を後押しする狙いに加え、導入を検討している欧米に後れをとることへの懸念がある。新型コロナウイルス禍のさらなる「コスト増」を懸念する経済界を説得できるかが焦点となる。
「成長に資するカーボンプライシングの検討にあたり、産業界の声を聞くことは非常に大事なことだ」
小泉氏は12日の記者会見で、CP導入に向け、化石燃料を取り扱う事業者らに理解を求めていく考えを強調した。
CPは炭素排出に課金して企業などに排出抑制を促す措置。対策が不十分な国の輸入品に関税を課す「国境調整措置」や、排出量に応じて課税する「炭素税」などの手法がある。
小泉氏は環境相就任以来、CPの導入表明を探っていた。欧州連合(EU)は2023年に国境調整措置を導入する方針を示しており、「バスに乗り遅れる」と懸念を強めていた。
一方で、コスト増を強いられる経済界は「競争力が奪われる」とCPに反発。首相が昨年10月に2050年までの脱炭素社会の実現を表明しても、環境省幹部は「企業が血判状を持って反対しかねない。逆に進まなくなる」と小泉氏をいさめていた。
状況を変えたのは、EUと同じく国境調整措置を検討する米バイデン政権誕生の機運の高まりだった。対応が遅れれば日本企業が一方的に課税されかねないとの懸念を経産省も抱いた。
小泉氏は昨年12月11日にCP導入の意向を表明。同17日には菅首相に「脱炭素社会の実現にはCP導入が必要だ。梶山弘志経産相と僕を官邸に呼び検討を指示してほしい」と訴えた。
首相は2人に制度設計の検討を指示し、加えて昨年末には政府の「グリーン成長戦略」に「成長に資するCPに取り組む」と明記した。
とはいえ、経済界はCPに慎重な態度を崩しておらず、日本商工会議所の三村明夫会頭は「コストアップになる」と異論を唱える。排出制限の緩やかな海外への産業流出につながりかねず、経産省も小泉氏主導を警戒。首相が指示した制度設計は経産省側が環境省の会議に参加して進むとみられたが、経産省は独自に検討会を設けた。
制度導入を急げば経済界の反発を招き、今秋までに行われる衆院選に悪影響を及ぼす恐れもある。自民党の閣僚経験者は「小泉氏は政治生命をかけるつもりでやるべきだ」と語る。(奥原慎平)