自民党内で、新しい感染症に対応するワクチンの国内での開発・製造能力を強化すべきだとの意見が高まっている。世界で新型コロナウイルスワクチンの争奪戦が起きる中、現状で輸入に頼るしかない日本は供給に不安が残る。自民は安全保障の観点からも国内での開発促進を政府に求めているが「日の丸ワクチン」の実現に向けた課題は多い。(豊田真由美、沢田大典)
自民は4日、党本部で「創薬力の強化育成に関するプロジェクトチーム(PT)」の初会合を開いた。日本がワクチン開発で出遅れたことなどを念頭に、新薬開発能力など薬品メーカーの国際競争力強化に向けた対策を検討し、5月ごろまでに提言をまとめる。
座長を務める橋本岳元厚生労働副大臣は会合で、「地元に帰っても『なんでワクチンが遅いのか』『なんで日本の薬が出てこないのか』といわれる」と危機感を示した。
菅義偉(すが・よしひで)首相が感染防止の決め手と位置付けるワクチンだが、日本は欧米に比べ接種開始が遅れた。今後も海外メーカーの動向に接種スケジュールを左右される可能性があり、弱点を露呈したといえる。中国などが他国にワクチンを提供して影響力を強める「ワクチン外交」を展開していることへの警戒感も強い。
一方、国内では塩野義製薬(大阪市)など複数のメーカーがワクチンの開発や治験を進めているが、実用化にはなお時間がかかる見通しだ。(【輸送技術には光明】常温輸送「粉末ワクチン」へ新装置 日本企業が新技術開発)
田村憲久厚生労働相は4日の参院予算委員会で、開発遅れの原因を問われ「欧米などはSARS(重症急性呼吸器症候群)やエボラのときの開発技術が役に立っている」と説明。逆に「日本はいろんな問題があってなかなか取り組みづらかった」と振り返った。
他国に比べて研究開発費が少ないことや、過去の薬害訴訟の影響から、承認までの時間が長いといった課題が指摘されている。
危機感を背景に、自民では大規模な感染症のワクチンをめぐる提言が相次いでいる。新国際秩序創造戦略本部(甘利明座長)は昨年12月、経済安全保障戦略に関する提言で、安全性・有効性を確保しつつ迅速・早期に承認審査する取り組みなどを求めた。新型コロナのワクチン対策PT(鴨下一郎座長)も先月、研究開発の基盤整備を提言した。
甘利氏は産経新聞の取材に「国産か、外資の日本誘致か。両方の場合でも、治験・承認の仕組みを変えるのか、動くようにするのか。課題を全部洗い出し、次のパンデミック(世界的大流行)に備えることが大事だ」と強調した。