海外情勢

ミャンマーデモ、国境貿易に影 検問所の混乱続き物資移動に滞り

 ミャンマーで軍事クーデターに反対する反政府運動は日に日に激しさを増し、主要な交易相手国であるタイや中国などとの国境貿易にも色濃く影を落としている。タイ北部や中国雲南省のミャンマー国境ではゲートが閉じられ、物資の移動ができない状況に。タイとの重要な交易路であるミャンマー東部カイン州ミヤワディーでも、通関業務の滞りや新型コロナウイルスの流入を警戒するタイ側警備の厳格化で国境機能の低下が著しい。「タイ・ミャンマー第2友好橋」があるその大動脈を2月下旬、タイ側から取材した。

 トラック数珠つなぎ

 タイ北部ターク県メーソートにある通関施設を見渡せる小高い丘に登ると、ミャンマー行きのトラックが長い列を作っているのが見えた。8トントラックを中心に数百台はあっただろうか。その3割前後のコンテナ側面には中国語の文字。ここがタイ・ミャンマー国境でありながら、中国経済圏と深い関係にあることを如実に物語っていた。

 トラックの動きは極めて遅く、自転車の速度にも及ばない。検査場を出た後も車列はびっしりと数珠つなぎとなって、第2友好橋の向こう側まで激しい渋滞を形成している。一方、ミャンマー側から走行してくる車線は閑散としており、荷台が空のトラックも目立つ。国境の先でミャンマー側のトラックに荷を積み替え、タイに戻ってくる車のようだ。

 タイ側の施設職員に話を聞くと、国境を流れるモエイ川対岸のミヤワディーでは反政府デモに参加する人がこのところ増え、通関手続きなどに遅れが生じているという。また、最大都市ヤンゴンなどと同様に故障車両を路上に放置する動きがミヤワディー周辺でも発生しているといい、深刻な渋滞となってタイ側からのトラックが引き返せずに立ち往生している。

 ミャンマー側では銀行業務も停止しており、両国間の送金などができない状態が続いている。このため、商品の引き渡しができず、日差しの下で長時間放置された農産物が傷むなどの2次被害も見られるようになった。わずかに緊急輸入として免税措置が採られたミャンマー産トウモロコシがタイ側に一時的に輸出され、トラックからこぼれ落ちたトウモロコシの粒が大量に路上に散らばっているのを目撃した。

 通関の遅れは、デモによる人手不足によるものだけではない。ミャンマーでは医療機関が相次ぎ閉鎖されたことから、新型コロナ患者に対する治療や感染拡大を防ぐための十分な検査態勢が取られなくなった。このため、メーソートの国境ではウイルスの侵入を防ごうとするタイ国境警備隊などによる厳格な検査が行われており、これまで以上に長い時間を要し煩雑さを増している。これらが重なり合って、国境機能はまひ寸前の状態に陥っている。

 コロナで検査厳格化

 影響は周辺道路での交通の取り締まりでも見られた。国境通関施設の取材には、ターク県の県庁所在地から約100キロを公共バスを乗り継いで向かった。ところが、途中の検問所で何度も停止を命じられ、身分と取材目的を執拗(しつよう)に確認された。ミャンマー側からの密入国者が新型コロナの感染第2波を招いたことから、警備当局の追及は厳しい。ミャンマーには決して渡らないという誓約書の提出が求められた。

 混乱は各地の国境検問所でも広がっている。タイ北部チェンライ県メーサイとミャンマー東部シャン州タチレク間は、タチレク側での反政府運動の激化で2月上旬から封鎖された状態が続いていた。通関職員の人手確保が困難なことと、デモ会場が幹線道路に面しているためだとされた。

 また、同じシャン州ムセの中国雲南省瑞麗との国境も、クーデターのあった2月1日直後からトラックの荷が通過できなくなっている。この時期はスイカとメロンの最盛期。現地からの報道では、通過を待つミャンマー側のトラックは少なくとも500台以上に達し、一部では積み荷のまま腐敗が始まっているという。

 ミャンマーにとってタイと中国は、輸出で合わせて全体の6割近く、輸入でも45%以上を占める最重要の貿易相手国。このうち、タイだけでも昨年の貿易総額は約2054億バーツ(約7200億円)に達し、国境貿易は8割強の約1648億バーツに及ぶ(タイ商務省統計)。第2友好橋を通過する貨物が占めるのは、このうち半分の約800億バーツ。両国貿易の大動脈と呼ぶのにふさわしい交易路となっており、影響は甚大だ。(在バンコクジャーナリスト・小堀晋一)

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