専欄

中国のサブカル向け非公式翻訳「ファンサブ」手法の功罪

 新型コロナウイルスの流行によって、日中間の往来はビジネス関係者を除いて制限されたままだが、それでもインターネット上では、中国の若者を中心に、日本のドラマや映画、アニメ、アイドルなどサブカルチャーへの人気は依然として根強い。日本で話題を呼んだ作品が中国の動画サイトに登場するのに、それほど時間はかからない。(拓殖大学名誉教授・藤村幸義)

 ただ、中国が日本からドラマ、映画、アニメなどの映像作品を取り込む場合、翻訳して字幕を付けなければならない。当初は公式の翻訳チームが行っていたが、作品が多くなってくると、それだけでは間に合わない。ファン(愛好家)が自主的に翻訳して字幕を付ける「ファンサブ」というやり方が増えてくる。こうした非公式の翻訳チームは「字幕組」とも呼ばれていて、中国のユーザーには欠かせない存在となっている。

 「ファンサブ」の翻訳チームは若者が多い。中には学生が在学中からチームを作って参加したりする。利益は考えずに、ボランティアで行う。翻訳してアップするまでには、それなりの費用もかかるが、全ては自己負担である。だからといって、メンバーの翻訳水準がそれほど低いわけではない。異文化への理解度も高い。

 「ファンサブ」の利点は、政府からの干渉をあまり受けないことだ。公式の翻訳チームとなれば、そうはいかない。政府の意向に反すれば、修正を求められるか、場合によっては作品がお蔵入りになってしまう。

 ただ、「ファンサブ」は正規のルートからの購入ではないので、著作権侵害の疑いのあるケースが多い。海外から訴えられたこともあるし、中国政府も表向きは反対の姿勢を取っている。それでも厳しい措置は取らず、基本的には見て見ぬふりをしている。「ファンサブ」を禁止することになれば、若者を中心に大きな反発が生じるのは目に見えているからだろう。

 もっとも「ファンサブ」にも強敵が現れてきた。機械翻訳の精度が目に見えて向上してきたことである。ある中国人から「精度の高い翻訳サイトを見つけたので、試してみたら」と知らされた。使ってみると、これまでより格段に精度が上がっていて、普通の文章ならば、ほぼ正確に訳してくれる。

 いずれは「ファンサブ」に代わって機械翻訳が字幕を作成することになるかもしれない。それでも著作権侵害の問題は残るのだが…。

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