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増え続ける処理水、結論出ない処分方法…福島第1原発で設置進む最後のタンク

 来年3月、事故発生から10年を迎える東京電力福島第1原発(福島県大熊町、双葉町)では、増え続ける汚染水の処理水が124万立方メートルに達している。政府はトリチウムを含む処理水の処分方法を検討しているが結論は出ていない。令和4年夏には保管するタンクが満杯になり、処分の準備に2年程度をかかることを考えると、判断は待ったなしだ。計画している最後のタンクの増設工事も今月中に終わる。廃炉作業と並行して汚染水対策に追われる現場を見た。(芹沢伸生)

 汚染水と処理水

 福島第1原発には11月19日現在、処理水を保管するタンクが1052基並ぶ。膨大な量の処理水は、放射性物質に触れて汚染された水を浄化したものだ。

 壊れた原子炉には溶け落ちて固まった燃料(燃料デブリ)が残っており水を循環させ冷やし続けている。冷却に使った水は燃料デブリに触れ汚染水になる。

 一方、原発の敷地には地下水が流れ込み、雨も降り注ぐ。地下水や雨水は、壊れた原子炉建屋に地下や屋根などから入り、放射性物質を含んだ水と混ざって汚染水になる。

 汚染水の発生量は1日平均約130立方メートル。地下水などが原子炉建屋に入り込む状況について「詳しいことは分かっていない」(広報担当者)という。

 ALPS内部

 汚染水には放射性物質を取り除く浄化処理が施される。汚染水はセシウム吸着装置や淡水化装置などを経て、多核種除去設備(ALPS)に送られる。62種類の放射性物質を定められた基準以下に取り除くことができるというALPS内部に入った。

 今、原発構内は放射線量が下がり、96%が一般作業服で入れる「G(グリーン)ゾーン」になったが、ALPS内部は「Y(イエロー)ゾーン」。施設に入る際は防護服を着て全面マスクをつけ、靴下と手袋は3重にした。

 薄暗い内部は複雑な装置やパイプなどが並び、化学プラントのよう。照明を浴び鈍く光る設備の回りに、厳重な装備の人が並ぶと異様な雰囲気だ。「通常、原発にはない施設」。同行したスタッフの説明を聞き、深刻な事故が起きたことを改めて実感した。

 トリチウム

 ALPSでは吸着材が入った吸着塔に汚染水を通し放射性物質を除去し処理水となる。しかし、トリチウムだけは残る。

 資源エネルギー庁などはトリチウムについて、自然界に存在し放射線も極めて弱いことなどから、被ばくの心配はほとんどないと説明している。トリチウムは日本を含む世界各国の原発などで、基準の濃度以下に希釈し排出されており、福島第1原発でも事故前から放出されていた。

 処理水は無色透明で一見、普通の水。処理水の容器に線量計を近づけると、0・12マイクロシーベルトを差した。同じように市販品の浴用ラジウムボールが入った容器に近付けると、約14倍の1・67マイクロシーベルトだった。

 氷の壁

 汚染水は、汚染源を取り除く▽汚染源に水を近付けない▽漏らさない-の3つを基本方針に対策が取られている。

 「水を近付けない」対策のひとつが遮水壁。原子炉建屋の周囲は、地下水流入を防ぐ“氷の壁”に取り囲まれている。陸側遮水壁と呼ばれる凍土壁は全長約1・5キロ、深さ約30メートル。氷の壁は地中に約1メートル間隔で埋めた凍結管に冷却液を循環させ、地盤を凍らせて造っている。

 「トンネル工事の技術を応用している」(同行したスタッフ)とのこと。マイナス30度の冷却液が流れる配管の周辺は、霜がびっしりと付いていた。

 立ち並ぶタンク

 福島第1原発を建物の高い場所から見渡すと、所狭しとタンクが並んでいる。無駄なく設置するため、タンクは上から見ると蜂の巣状の六角形になるよう配置しているという。

 構内の一角では雨が降る中、今月中の完成を目指しタンクの建設作業が進んでいた。タンクの間隔は約1・5メートル。作業に必要なギリギリの幅だという。

 現在の計画では、これが最後になるタンクの増設。完成すればタンクの容量は計約137万立方メートルになるが、それでも再来年夏には満杯になる計算だ。

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