熊本県の蒲島郁夫知事は19日、県議会の本会議場で開かれた全員協議会で、氾濫を繰り返す球磨川の治水策として、支流の川辺川での流水型(穴あき)ダム建設を容認することを表明。「現在の民意は『命と環境の両立』だ。容易ではないが、成し遂げなければならない。球磨川と住民が共生する姿こそが流域の魅力だからだ」と強調した。平成20年の蒲島氏による反対表明で貯留型の川辺川ダム計画が中止となり、脱ダムの象徴とされた流域は7月豪雨の甚大な被害を経験し、ダム建設を前提とした流域治水に転換する。(中村雅和)
平成20年9月、蒲島氏は「球磨川そのものが地域の守るべき宝」として、川辺川ダム計画に反対を表明した。12年後、同じ本会議場で、ダム問題について真逆の判断を下した。
転換のきっかけは7月に九州の広範囲を襲った記録的な豪雨だ。熊本県でも球磨川が氾濫し、死者・行方不明者67人を出し、多数の家屋も損壊するなど甚大な被害が発生した。
流域では川辺川ダム計画の白紙撤回後、ダムに頼らない治水策を検討した。ところが、工期は長期間に及び、莫大な費用を要することもあり、抜本的な対策をまとめられずにいた。
蒲島氏は全員協議会で、過去にダム計画に反対した決断や、その後の経緯に触れ、「重大な責任を感じる」と述べた。その上で、「ダムの効果は過信できないが、選択肢から外すことはできない」と述べ、新たに環境に配慮した流水型ダムの整備を求める方針を表明した。一方で、川辺川での貯留型ダム計画は完全廃止を求めた。
終止符うつべき時
蒲島氏の表明を受けた質疑では、前川收(おさむ)県議(自民党熊本県連会長)が「ダムか、ダムによらないかという概念は捨てるべきだ。(対立に)終止符をうつべきときが来た。党として高く評価し、完全に賛同する」と訴えた。
野党系会派の議員からは「失望、落胆した」との声も上がったものの、議会の大勢は、従来方針を完全に転換させた蒲島氏の姿勢を支持、容認している。
ある県議は「球磨川流域は長年、水害も含めて生活が川とともにあった。ダム計画に反対を表明した当時は、可能ならダムに頼らない治水を全うしたい、清流を守りたいという民意が圧倒的だった」と振り返る。ただ、その一方で「7月の豪雨での深刻な被害を前に県民の生命や財産を守る責任を負う政治家ならばダムを容認するほかない。知事もそう考えたのだろう」と理解を示した。