75歳以上の後期高齢者の医療費を現行原則1割から一定所得以上は2割に引き上げる政府方針をめぐり、自民党内で来年の衆院解散・総選挙を見据えて慎重論が強まっている。ただ、党内の財政再建派は政府方針の着実な実施を求めており、水面下で綱引きを展開。政府は2割負担の対象となる所得基準を年内に決める方針で、実施時期を含め、政治判断が求められそうだ。
「2割負担は国民の健康を守るのにどう資するのか」「これから政治決戦だ。(実施)時期を先送りする選択肢も考えるべきだ」「新型コロナ禍の状況下で行うことではない」
自民党が20日に開いた社会保障制度調査会(鴨下一郎会長)の医療委員会(橋本岳委員長)では、2割への引き上げに慎重論が続出した。「将来に責任を持たなければならない。苦しいことであっても国民に理解を求めるのが私たちの役割だ」との声も出たが、多勢に無勢だった。
会合の最後に厚生労働省の浜谷浩樹保険局長が「団塊の世代が2022(令和4)年度に後期高齢者に入ってくる。いったん入ると導入は難しくなる。今回がギリギリのタイミングだ。ぜひとも今回決定していただくことをお願いしたい」と訴えたが、拍手はなかった。
一方、自民党財政再建推進本部(下村博文本部長)は19日の会合で「『年齢から負担能力に応じた負担』への見直しを進めていく必要がある」とする報告書案を大筋で了承した。
本部の下の「財政構造のあり方検討小委員会」(小渕優子委員長)では中間報告をまとめており、「1割負担で据え置く後期高齢者の範囲はさらに限定された低所得者とすべきだ」と明記。給付は高齢者中心、負担は現役世代中心の現行制度を是正するよう求めている。ただ、衆院の解散時期が近付けば、党全体が慎重論に傾く可能性は大きい。
政府の全世代型社会保障検討会議は昨年12月にまとめた中間報告で「2022年度初めまでに改革を実施」と明記する一方で、「具体的な施行時期」などは「頻繁に受診が必要な患者の高齢者の生活などに与える影響を見極め、適切な配慮について検討を行う」とも記しており、所得基準を決めた上で、柔軟な対応を模索することが予想される。医療委員会で鴨下氏はこう語った。
「政治的な判断も必要とされる時期に入っている」(坂井広志)