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「ルールで中国を縛る」 インド抜きでもRCEP参加の狙い

 日中韓や東南アジア諸国連合(ASEAN)など15カ国が参加する地域的な包括的経済連携(RCEP)交渉が15日に妥結したが、インド抜きの協定となったことで中国依存を警戒する声も根強い。それでも日本が参加の方針を貫いたのは、経済的な恩恵だけでなく、日本が推進する「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)の発展にもつながると判断したためでもある。

 RCEPは2012年に16カ国で交渉を始めた。発効すれば世界の国内総生産(GDP)と人口の約3割を占めるアジア圏最大の自由貿易協定となる。全体の関税撤廃率は91%にのぼる。

 ただ、対中貿易赤字の拡大を懸念したインドは、最終局面で交渉から離脱した。日本は経済成長の著しいインドを巻き込むことで、中国の台頭を牽制しようとしていたが痛手となった。国内からは「インドを含む16カ国でスタートすべきで、署名は慎重にすべきだ」(立憲民主党議員)との声も出ていた。

 菅義偉首相も即断は避けたとみられる。10月に初外遊として訪問したベトナムやインドネシアはRCEP参加国だが、訪問中に協定への言及は一切していない。外務省幹部は「RCEPが日本にとって本当に有益かどうか、立ち止まって熟考していたのだと思う」と振り返る。

 それでも、交渉から離脱する選択肢はなかった。新型コロナウイルスの世界的流行で経済が冷え込む中、RCEPへの経済界からの期待は高い。梶山弘志経済産業相も「日本の工業製品や農水産品のアジア圏への輸出拡大に大きく寄与する」と強調した。

 もし日本がRCEPから退けば、ASEANでの中国の存在感がさらに強まるとの懸念もあった。世界貿易機関(WTO)が機能不全に陥る中、中国と知的財産や電子商取引の分野で共通のルールを持つ意味は大きい。日本は「中国を縛り監視する」(外務省幹部)ためにも、協定にとどまる必要があると判断。インドが早期復帰できる規定を日本主導で整えた上で、協定に署名した。

 より大局的な展望もある。日本は環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)、日米貿易協定、EU(欧州連合)や英国との経済連携協定(EPA)を立て続けにまとめ上げてきた。自由貿易の拡大は日本が掲げるFOIPの柱でもある。世界貿易の3割を網羅するRCEPも例外ではない。

 日本が次に見据えるのが、トランプ政権が離脱を決めた米国のTPP復帰だ。バイデン政権が誕生しても、米議会の構成などから復帰は容易ではないとの見方が強い。それでも、RCEPの誕生は「米国の視線を自由貿易やインド太平洋地域に振り向ける」(外務省幹部)効果もある。

 バイデン氏は16日、「中国に対抗する必要がある」と述べ、通商政策の見直しを表明した。日本が来年、TPP議長国を務める中で、RCEPは欠かせない布石にもなっている。(石鍋圭)

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