大量生産・大量消費・大量廃棄の経済成長から環境対策へ、さらには持続可能性への流れは世界的な潮流であり、経済成長と環境負荷低減を両立させ持続可能な社会を実現するための産業モデルとして「サーキュラーエコノミー」という言葉も、頻繁に耳にするようになってきている。中国では、経済規模の拡大に伴い、資源消費と廃棄物排出の増加が顕著であり、環境保護対策と持続可能な成長モデル構築の必要性がますます高まっている。(野村総合研究所(上海)・板谷美帆)
ネット使い資源回収
サーキュラーエコノミーは、中国では「循環経済」と称される。これまでの「3R(リデュース・リユース・リサイクル)」などに加え、資源を有効活用する取り組みとして、再製造・改修・修理などによる製品寿命の延長、余剰リソース削減に資するシェアリングや中古品取引などの新たなサービスも、その範疇(はんちゅう)として捉えられている。
中国で政策文書に初めて「循環経済」が出現したのは意外と早く、2005年には「循環経済発展加速に関する若干意見」が国務院(内閣)より公布されている。その後、08年8月には中国初の循環経済に関する立法法規である「循環経済促進法」が公布され、09年に施行された。この頃にはパイロットプロジェクトやモデル園区などの単発的・試験的取り組みを中心に展開されてきたが、17年に国家発展改革委員会など14の政府部門が連名で「循環発展牽引(けんいん)行動」を公布して以降、より広範囲に本格的な取り組みが展開されている。日本にも関係のあるものとしては、17年7月には海外からの固体廃棄物輸入規制が強化された。また、上海、北京といった大都市において「生活ごみ管理条例」が施行されているのもその一環である。
「循環発展牽引行動」には、10の重点アクションが含まれており、これまでのモデル区、試験区関連以外に、「『インターネット・プラス』資源循環行動」「再生製品・リビルド製品普及行動」「資源循環利用技術イノベーション行動」などが盛り込まれている。ここでは、「インターネット・プラス」資源循環行動に注目してみたい。
このアクションは資源回収におけるインターネット活用やオンラインとオフラインの融合、製品ライフサイクルにおけるトレーサビリティーの構築を目指すものであり、具体的な事例としては、企業を対象とした再生資源取引プラットフォーム、OA機器のリース・リサイクルや、生活ごみの分別回収、家庭から出る不用品リサイクルを対象とするものなどが挙げられる。
北京新易資源科技有限公司は、15年に再生資源取引プラットフォーム「易再生」を立ち上げ、再生プラスチックペレットなどの取引・決済プラットフォームを構築している。また、浙江九倉再生資源開発有限公司による「虎哥(か)回収」は、都市住民を対象に、QRコード付き専用ごみ袋、分別マニュアルを配布し、ごみ袋ごとにきめ細かい管理・処理を行う事業に取り組んでいる。
この他に、中国ではITを活用したシェアリングエコノミー、電子商取引(EC)による中古品販売などの取り組みも、近年活発である。これらは必ずしもサーキュラーエコノミーのみを目的としたものではないが、これらは、中国が強みを持つITを活用した新たな取り組みであること、そして最終的にはサーキュラーエコノミーにつながるものという点において注目に値する。
新たなビジネス機会
日本には環境技術、リデュース・リユース・リサイクル関連のビジネス経験・ノウハウを有する企業も多い。中国のサーキュラーエコノミー進展においては、こうした日本企業にも新たなビジネスチャンスが出現する可能性が秘められている。人口が多く、経済規模の大きく世界への影響が大きい中国のサーキュラーエコノミーへの参画は、地球環境保護への貢献という観点からも意義は大きいであろう。そして、中国から新たな関連技術やビジネスが生み出される可能性も存在する。中国経済が成熟に向かう中で、今後一層強化されていくであろうサーキュラーエコノミーの動向に注目したい。
【プロフィル】板谷美帆
いたや・みほ 中国・華東師範大学卒。在中国日系エレクトロニクスメーカーを経て、2011年野村総合研究所(上海)に入社。産業三部主任コンサルタント。専門は、中国市場分析・事業戦略、中国政策分析など。東京都出身、北京在住。