ウィズコロナ下で特許庁でも企業同様に進むテレワーク。働き方改革も踏まえてどう対応し、従来の強みをどう生かしていくか。岩崎晋特許技監(55)に聞いた。
--新型コロナウイルス対策でテレワークを実施した
「われわれは未公開書類を扱っている。出願人が取り下げたら、出願内容はそのまま企業の営業秘密となる。いわば他人の財産を預かる身である。このため特許庁の業務はほぼペーパーレスで電子化されているが、職員が庁外で仕事をすることを想定してこなかった。だが今回、既に公開された資料に基づく審査や起案(処分・通知書類などの作成)などは、職員の自宅でやれる部分があると考えた」
--どう対応したのか
「庁内には子育て中の職員もいる。実は、働き方改革の一環で、審査官のテレワーク用システムを昨年末までに庁内で開発し、3月まで試行していた。これが功を奏した。緊急事態宣言の頃は、登庁を週1日のみとし、残りをテレワークとした。特許庁のシステムは巨大で硬く、簡単に変更できないが、時宜に応じた対応も必要になるため、数年前から可能な部分は内製化を始めた。担当チームは既にあり、審査官自らもコーディングしてシステムを組んでいる」
--働き方改革の課題とは
「他国に比べ日本の審査官の生産性や審査の品質は極めて高い。ここには話し合いをする文化が根付いていることが影響している。例えば欧米の審査官は個室だが日本は大部屋方式で(人的な)風通しが良い。特許文献サーチでは容易なサーチ方法を周囲の審査官に聞く中で、フィジカルに(リアルな空間内で)共有できる。判断に迷えば上司と相談できる。若手審査官の育成もフェース・ツー・フェースの徒弟制度で成り立っている。このような文化をテレワークの中でどう継承し、実現していくかは大きな挑戦だ」
--新たな時代に向かっていく
「特許庁ではデザイン経営を掲げている。職員が自ら必要と考えたことを自ら改善しようとする点で内製化も同根にある。長年思ってきたことは、個々人の能力を伸ばしながら組織力を底上げすること。その仕掛けの一つがデザイン経営や内製化などの活動だと認識している。やはり個々人が組織のことを常に考えて行動できるということが大事だ。個人の能力を高めつつ組織全体のモチベーションを上げ、個人の組織に対する関与度を増しながら組織全体の能力の底上げを図る。容易ではないが、それができるなら、特許庁は結構強い役所になれる。私も努力したい」(知財情報&戦略システム 中岡浩)