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淡路島へ本社移転するパソナ 地方創生のモデル示す「会社に行かなくても…」

 人材派遣大手、パソナグループは令和5年度末までに社員約1200人を東京本社などから淡路島(兵庫県)に異動させ、淡路島で取締役会や経営会議を開催するなどして本社化する方針を発表した。パソナは京都府や岡山県などで「道の駅」事業を受託するなど「地方創生」にも積極的に取り組んできたが、新型コロナウイルスの感染拡大を機に淡路島への本社移転を決め、地方創生のモデルを自ら示した格好だ。(巽尚之)

 コロナで働き方改革

 新型コロナを受け、多くの企業がパソコンを通じて遠隔で仕事をするリモートワークを実施。通勤ラッシュを避け、在宅で勤務ができる「働き方改革」が実証された形だが、パソナでは「会社に行かなくても仕事ができる」改革に積極的に取り組む方向で議論を重ねてきた。

 この結果、あえて物価や賃料の高い東京に本社を置かず地方へ本社機能を移しても支障ないと判断。東京から約600キロ離れた淡路島への本社移転を決めた。

 登記上の本社を地方に置く大企業にはファーストリテイリング(山口県山口市)などがあるが、東京本社を逆に地方へ移転する企業は珍しく、南部靖之代表は「上場企業の先陣を切って地方移転を実践する」とアピールする。

 一石投じた就農事業

 パソナグループの創業者である南部氏は、東京一極集中が加速している現状に疑念を抱いてきた。

 平成7年に阪神大震災が起き、南部氏の出身地、神戸市で家屋が倒壊するなど大きな被害を受けた際、南部氏は店舗を失った店主らのために「1坪ショップ」を提供し商売が継続できるように便宜を図ったほか、神戸港を起点とする、音楽が楽しめるクルーズ船事業にも乗り出した。

 20年から本格的に取り組み始めた就農事業でも一石を投じた。若者が東京などの都会に出て企業に就職するのではなく、農業に従事することで生計を立ててもらう計画だ。

 淡路島に農地を取得し、米や玉ねぎなどの農産物を生産することで自立を促し、今では独立したメンバーは年間1千万円以上売り上げるほどに育っているという。

 本業以外のビジネス

 農業を通じて淡路島に足場ができ、次に取り組んだのがテーマパークやレストラン経営などだ。今年8月、淡路市内に開業したのが劇場とレストランを備えた施設「青(せい)海(かい)波(は)」。開業レセプションでは、こけら落し公演に南部氏と親しい落語家の桂文枝さんが登場し会場を沸かせた。

 劇場に隣接する和食レストランは階段教室のような造りで、全席から海が見渡せるオーシャン・ビューの設計。人との対面を避けられ感染予防にも効果的だ。

 29年に開業したテーマパーク「ニジゲンノモリ」には、漫画家、手塚治虫(故人)の名作「火の鳥」をプロジェクション・マッピングでたどる企画などを展開し、近く怪獣「ゴジラ」もお目見えする。

 こうした新たなエンターテインメント(娯楽)施設が次々と開業するのには、雇用創出の狙いもある。

 「青海波」では、歌って踊れる芸術系や演芸人材に活躍の場を提供。漫画やイラストを描けるクリエイターも抱え、「ニジゲンノモリ」などに関連するデザインの仕事を割り振る。

 人材派遣という本業以外のビジネスが育ってきた淡路島に本社機能を移すことで、レストランや劇場など各施設の利用率を高める相乗効果も視野にある。

 南部氏は昭和27年生まれ。かつては、同26年生まれで旅行会社、エイチ・アイ・エスを創業した澤田秀雄氏、同32年生まれでソフトバンクグループ創業者の孫正義氏とともに「ベンチャー三銃士」と呼ばれた。

 平成17年には東京・大手町の銀行地下金庫跡でコメや野菜作りを始め、視察に訪れた小泉純一郎首相(当時)を驚かせ、現在の東京本社の1フロアでは牛や豚、ヤギなどを飼育する“ビル牧場”が話題になった。パソナの事業展開は奇想天外でもある。

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