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NYタイムズが激賞した“絶景の桜”ピンチ 病気で枯死の危機

 米紙ニューヨーク・タイムズの電子版が昨年、“2019年に行くべき52エリア”の記事を掲載。日本からは唯一“瀬戸内の島々”が選定された。だが、この記事で写真が掲載された香川県三豊市の紫雲出山(しうでやま)=352メートル=の桜が病気にかかり、美しい風景が見られなくなる危機に陥っている。市観光交流局は、紫雲出山のアジサイを使ったドライフラワーの販売を専門店とともに企画。売り上げの一部を桜の保全に充てる取り組みが始まった。

瀬戸内海と桜が織りなす絶景

 昨年1月、ニューヨーク・タイムズの電子版は「2019年に行くべきデスティネーション(52エリア)」として日本で唯一、「Setouchi Islands(瀬戸内の島々)」を選定。世界中のデスティネーションでは第7位にランクインした。

 記事は、瀬戸内海の島々で開かれる「瀬戸内国際芸術祭2019」や会場となる豊島(てしま)、本島(ほんじま)に言及したが、合わせて、桜が満開の紫雲出山から望む瀬戸内海の写真が掲載された。

 市観光交流局によると、記事の効果もあってか、昨年の花見シーズンに紫雲出山を訪れた観光客は、一昨年に比べて1万人ほど多い約4万人に上った。市観光交流局の石井紫さんは「瀬戸内海と桜を同時に見られる場所は珍しく、欧米から訪れた人が目立った」と話す。

病気で枯死の危機

 紫雲出山は、瀬戸内海に突き出た荘内(しょうない)半島の先端にある。ソメイヨシノや八重桜など全体で計千本の桜があり、山頂からの眺めは格別だ。

 ところが、展望台付近の樹齢50~60年のソメイヨシノが、カビの一種が原因で発生する「てんぐ巣病」に相次ぎ感染。花が咲かなくなったり、木が枯死したりする病気で、いずれ満開の桜を見られなくなる可能性もあるという。

 市観光交流局は感染した桜の伐採や剪定(せんてい)を進めるが、大半の木に感染が広がっており、植え替えを迫られることも想定され、市とともに桜の保全計画を検討。紫雲出山の頂上には弥生時代の高地性集落の遺跡があり、桜の保全が遺跡に影響を与えることはあってはならないため、現在の景観を維持できるかは不透明で、植え替えとなれば、長い時間と多額の費用がかかるとみられる。

 以前から、桜の保全に向けた募金を観光客らに呼びかけているが、かかる費用をまかなえるほどの額が集まっていないのも現実だ。

「もったいない」

 そうした中、市観光交流局は紫雲出山の遊歩道沿いに咲くアジサイに注目。200株ほどあり、6~7月に鮮やかな青や紫の花をつける。見頃が終わると刈り込み、枝も含めて大量のアジサイを廃棄。石井さんは「毎年、もったいないと感じていた」という。

 そこで、潮だまりに映る景色が「ボリビアのウユニ塩湖に似ている」と人気を集める「父母ケ浜(ちちぶがはま)」の近くにある専門店「Seasonal stand」に、アジサイのドライフラワー作りを持ち掛けた。

 同店では、7月下旬に刈り取られたアジサイを乾燥させ、ドライフラワーに加工。店内に入ると、天井を埋め尽くすようにつり下げられている。青っぽくくすんだ色合いで、一つずつ微妙に色が異なる。人の顔ほど大きいものから小ぶりなものまで多種多様だ。1本から購入でき、他の花と組み合わせたブーケも販売。売り上げの一部は紫雲出山の桜の保全に充てられる。

 市観光交流局は「自然がいつまでもあるとはかぎらない。地元の人や観光客に保全の必要性を理解してもらえたら」とする。同店が入る施設の支配人の上浜一馬さんは「地元に貢献したいという思いで協力した」と話している。

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