東南アジア最貧国の一つラオスで、巨大経済圏構想「一帯一路」の下でインフラ開発を進める中国の影響力が増している。中国とラオスを結ぶ鉄道の建設は8割以上が完成し、来年末には完工予定だ。新型コロナウイルス感染拡大では医療団を派遣するなど、存在感を強めている。
ラオス北部の古都ルアンプラバン郊外にある鉄道の建設現場を訪ねると、ゆったりと流れるメコン川に大きな橋がかかっていた。周辺には中国語の看板が目立ち「老中鉄路(ラオス中国鉄道)」の文字が見える。川向こうには険しい山がそびえ、列車が通ることになるトンネルも確認できた。鉄道は一帯一路に基づくもので、中国の雲南省昆明とラオスの首都ビエンチャンを結び、タイの首都バンコクを経てシンガポールまでつながる。本格的な鉄道のないラオス政府にとっても、外国とつながる長距離鉄道の建設は「悲願」(ビエンチャンの男性)だった。
ラオス国内部分の総延長は約415キロ、総事業費は約60億ドル(約6370億円)。そのうち約7割を中国側が負担する。建設は約5年前に始まり、大部分が単線だとされる。中国国営通信新華社によると、走行速度は時速160キロの予定だ。
「伝統変わる」懸念
一方で、市民からは「中国は作業員を連れてきて、ラオス人をほとんど雇わない」との不満も漏れる。建設資材の多くを中国から運んできており、地元経済への貢献が少ないとの見方も強い。経済規模が小さく、人口も少ないラオスで、投資に見合う利益が出るのかを疑問視する声もある。
ラオスは経済面で中国に大きく依存するが、市民感情は複雑だ。社会主義国のラオスでは、市民が表立って政府を批判するのは難しい。それでも中国人の往来が活発になり「町の伝統や雰囲気が変わってしまう」(ルアンプラバンの女性)などと懸念を口にする人が多かった。
対コロナでも存在感
市民の不安をよそに、中国は存在感を高めることに余念がない。ラオスでも3月以降、新型コロナ感染拡大が確認された。中国は感染者が出る前から、医療物資を寄贈。医療専門家のチームも派遣してきた。
ビエンチャンでの存在感もかつてないほどに増している。市内の中国系ショッピングモールでは中国語が飛び交い、近くには中華料理店や中国資本のホテルが並ぶ。
ビエンチャンで50年以上働く男性運転手は「中国人は昔こんなにいなかった。ラオス人を追い出し、居住地を拡大している」と説明。「このままではラオス人の場所がさらに奪われる」と苦々しそうに語った。(ルアンプラバン 共同)
【用語解説】ラオス
インドシナ半島にある内陸国で、人口約716万人。首都はビエンチャン。ラオス人民革命党の一党独裁で、社会主義国。2018年の国内総生産(GDP)は181億3072万ドル(約1兆9250億円)で、1人当たり国民総所得(GNI)は2460ドル。東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国。北朝鮮とも友好関係にある。(ルアンプラバン 共同)