昨年9月ごろから約半年続いた森林火災で、日本の国土面積の半分相当が焼けたオーストラリア。今年は大規模被害を防ごうと、先住民アボリジニが伝統的に続けてきた火災予防のための野焼きが注目されている。長く白人に虐げられた先住民の知恵を生かすことで「和解」につながると期待する声も上がる。
南半球のオーストラリアでは例年、夏を迎える12月ごろから森林火災が多く発生するが、昨年は記録的な高温と乾燥を背景に春から本格化。史上最悪規模となった。原因は落雷から自然発火、失火、放火までさまざまで、多く自生するユーカリの木に油分が多いことも被害拡大の一因だ。
「この辺りは被害を免れたが、各地で相次いだ火災は地域社会のトラウマとなった」。東部ニューサウスウェールズ州バンガンドーに広大な森林を所有するマーティーナ・シェリーさんは話す。被害を避けたいと思い付いたのが先住民の野焼きの活用だった。7月下旬の週末、シェリーさんの森では、地元の消防団員を含め約40人が野焼きの体験ワークショップに参加した。講師は国立公園でレンジャー経験もある先住民のデン・バーバー氏だ。
燃えやすい下草や枯れ葉を事前に焼いておけば、自然発火や延焼のリスクが低減する。野焼き自体は国立公園や消防団なども実施しているが、バーバー氏によると、燃料を使って広い面積を燃やし尽くすそれらと違い、燃料を使わず小分けした範囲をゆっくりと燃やすのが先住民流。焼けた所とそうでない所がモザイク状となる。樹冠は残るため動物の逃げ場を確保でき、むやみに生態系を傷つけずに済むという。
バーバー氏は「火は使いようだ」と話し、長い歴史の中で先住民が身につけた火の管理方法が広く共有されることを望んでいる。
安全性の面から行政当局がなかなか許可を出さないとの指摘もあるが、ワークショップに参加した非先住民の消防団員、ウィリアム・ベルドン氏は「消防団の野焼きが住宅や不動産を守るのが目的なのに対し、先住民の野焼きは森林と動物を守ることに焦点が当てられていると分かった」と感心していた。
火災科学を専門とするタスマニア大のデービッド・ボウマン教授は先住民の野焼きに一定の火災予防効果を認め「社会的、歴史的に不公平な立場に置かれてきた彼らの技術を評価して利用することは重要」と話し、非先住民が学ぶことで和解の一助となるとの考えを示した。(バンガンドー 共同)