海外情勢

米国「自国を優先」中国「外交の武器」 コロナワクチン争奪で激突 (2/2ページ)

 生産準備にも余念がない。シノファームは国内で2億回分以上の年産能力を確保する見込み。カンシノは1億~2億回分を目指し、シノバックは国内で1億回分、ブラジルでも1億2000万回分の生産権を得ることになった。中国で10社以上が生産体制を整備し、政府はワクチンの産業化加速を指導する方針だ。

 中国は感染拡大を押さえ込んだが、経済活動の大幅制限などで国民の反発が高まった。感染の完全な終息宣言を早期に出せるか否かは、習政権の基盤を改めて固める上で重要。開発を急ぐのはワクチンがそのために欠かせないためだ。

 ワクチンは外交の武器ともなりうる。習氏は6月、アフリカ各国首脳とのテレビ会議で「ワクチンの実用化後、いち早くアフリカ諸国の使用を実現する」と強調した。米欧のワクチン争奪戦で入手が困難視される開発途上国を助け、影響力を広げようとの狙いがにじむ。5月のWHO総会では、中国のワクチンを「世界の公共財」にするとも述べた。

 フィリピンも中国のワクチンの優先利用を求め、中国側は「友好的な隣国であり、考慮したい」(汪文斌(おうぶんひん)外務省報道官)と前向きな姿勢だ。実現すれば、フィリピンが中国と争う南シナ海の領有権の主張を控える可能性も指摘されている。(北京 三塚聖平)

 欧州も危機感、囲い込みへ

 新型コロナウイルスのワクチン開発・供給で国際協調を重視する欧州諸国も、ワクチン囲い込みに乗り出した。米国の動きで「うかうかできない」と危機感を高めたためとみられる。

 英政府は7月29日、仏サノフィなどが共同開発中のワクチン6000万回分の供給を受けることで合意したと発表。シャーマ民間企業・エネルギー・産業戦略相は「(ワクチンへの)アクセスを早めに押さえるのは重要だ」と強調した。

 英国は英アストラゼネカ(1億回分)などからもワクチン供給の約束を得ており、欧州連合(EU)は7月31日、サノフィから3億回分を確保する予備交渉に合意した。英製薬業関係者は「米国がワクチン獲得を急ぐので、うかうかしていたら国民に配れなくなるとの焦燥感がある」とみる。

 一方、ワクチン獲得競争に対し、WHOは「ワクチン・ナショナリズムは助けにならない」(テドロス事務局長)と懸念を深める。

 WHOはワクチンや治療薬などを世界に行き渡らせる計画を立て、今後1年で313億ドル(約3兆3400億円)が必要と試算。このうち約180億ドルを、中低所得国向けを含むワクチン確保に充てる考えで各国に協力を呼びかけるが、集まった資金は34億ドルにとどまっているという。

 欧州ではロシアが11日、臨床試験(治験)第3段階を省いて国産ワクチンを承認。早期承認により世界の医薬品市場で主導権を握ろうとの思惑も指摘される。(ロンドン 板東和正)

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