国内

有事の介護現場対応に本腰 感染症や災害対策 自治体が計画

 相次ぐ豪雨災害や新型コロナウイルス感染拡大を受け、市区町村が地域の実情に応じた介護サービスを提供するため3年に1度策定する介護保険事業計画をめぐり、厚生労働省が国の基本指針を改正し、初めて感染症や災害への対策を盛り込むことを決めた。感染リスクが高い上、有事に自力では避難できない災害弱者が暮らす介護現場の対策は急務。今後自治体が本腰を入れることになるが、専門家は「市区町村を越えた広域の対応が必要」と課題を挙げる。

 明確な指示なく

 「初めてのことなのでやむを得ないが行政の対応は揺れた」-。新型コロナで4月にクラスター(感染者集団)が発生した東京都江東区の特別養護老人ホーム(特養)「北砂ホーム」。運営する社会福祉法人あそか会の古城資久理事長は当時を振り返る。計50人以上の感染者が出て、職員も大部分が自宅待機に。行政に「どうすればいいのか」と尋ねても「最低限のケアでやってください」と言われるだけで、途方に暮れた。

 結局、法人関係の応援職員を集め乗り切った。「第2波、第3波に向け、行政には医療支援体制や職員の出勤停止の条件などを検討し、示してほしい」と求める。

 共同通信が5月に行った調査では高齢者の入所施設で新型コロナに感染した入所者、職員は少なくとも計700人で、うち死者は79人に上った。マスクや防護服、消毒液などの物品不足も深刻だった。

 豪雨災害や台風でも介護現場の被害が後を絶たない。厚労省の担当者は27日の会議で「多くの施設で避難計画を策定できていると思う」としたが、7月豪雨では特養「千寿園」(熊本県球磨村)が浸水し、14人の高齢者が犠牲になった。ある特養関係者は「今後は災害に加え新型コロナウイルスのリスクとも長く付き合っていく必要があり、行政とともに危機対応を考え直さなければいけない」と話す。

 広域での支援必要

 厚労省は今回、施設職員の研修や防護具備蓄に加え、施設間で職員の応援体制を築いておくことの必要性も指摘した。

 既に取り組みを始めた県もある。神奈川県は福祉施設でクラスターが発生した場合に派遣可能な職員を事前に登録し、旅費や宿泊費を県が負担する仕組みを作った。100人超が登録済みで、有事に備えている。

 介護計画に災害対策を盛り込むことについて、東洋大の高野龍昭准教授(高齢者福祉)は「近年の大規模災害の多さや、高齢者が感染リスクに弱いという点を踏まえると評価できる」と話す。一方、災害や感染症は広域での対処が必要なため「市区町村が単独で対応するのは難しく、都道府県の支援がなければ実効性は期待できない」と指摘している。

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