専欄

荒療治をした北京第2波抑え込み 人々の反応と矜持

 北京で新型コロナウイルス感染症の第2派か、と騒がれ始めたのは、6月上旬のことである。50日間新たな発症者がいなかったとして、警戒レベルを引き下げた直後のことだった。6月11~17日の7日間で137人の新たな感染者が確認されている。そのうち少なくとも70人は感染源とされる「新発地卸売市場」に立ち寄ったか、濃厚接触者だった。(ノンフィクション作家・青樹明子)

 同時期の東京も、北京とは比較にならないほどの新規感染者を出している。緊急事態宣言時より多い数字だが、これといった対策を打ち出せない。そんな東京に比べ、北京市の対応は徹底していた。

 北京市政府はまずPCR検査地点を193カ所に設けた。感染者を出した2週間前以降、市場を訪れた約20万人全員を検査するという。6月14日だけで検査数計7万6499人、そのうち59人に陽性反応が出た。その後の2週間で、北京市の人口の約3分の1に当たる769万人の検査を実施した。

 第2派で、庶民の生活も再び後戻りである。6月15日から小学校低学年の授業再開を予定していたが、再度延期。高校や大学入試の受験生たちは、試験前の14日間を自宅学習とした。

 飲食店に対しても、第1波後に殺到していた宴会などの中止を通達した。雍和宮(ようわきゅう)など一部の観光地、国家大劇院や博物館といった文化施設も再び閉鎖である。市場に隣接する巨大な団地群も封鎖された。日本の外出自粛とは異なる完全封鎖で、買い物の自由もない。

 責任者の処分も迅速だった。北京の共産党北京市規律検査委員会は「市場の消毒を怠った」などとして地区の党幹部らの免職を決めた。

 荒療治に結果はついてくる。7月21日現在、新規感染者ゼロの状態が続いている。

 新型コロナ問題は、それぞれの国によって対応も異なり、人々の反応も一律ではない。

 北京の場合はどうか。新発地卸売市場は別名「北京の買い物籠」とも称されている。ここが封鎖されたことで、肉や野菜など、基本的な食料品が値上がりした。しかし人々は「相手がウイルスなら仕方がない」と、離れた場所の食品市場まで、おとなしく買いに行く。ようやく再開した経済活動だったが「まずは抑え込みが大事。安定させてから立て直せばいい」と、諦めつつも前を向く。

 そういう人々の意識の底には、首都・北京に対する矜持(きょうじ)のようなものがうかがわれる。「偉大なる首都・北京は、中華民族にとって家であり、大切な子供だ」という感覚である。自分たちの家・北京を守らなければならないという使命感だ。

 一方日本の首都・東京では、感染者が最多の200人超えを記録しても、夜の街は人出が絶えない。若者たちも「コロナは怖いけど遊びたい」と言いながら、飲み会に参加する。政治体制の違い、罰則の有無などを除外しても、埋められない意識差が、そこにある。

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