海外情勢

「一国二制度の失敗を中国が自ら宣言」“香港民主主義の父”李柱銘氏インタビュー

 【香港=藤本欣也】香港の民主派政党、民主党の主席などを務め、“香港民主主義の父”と称される李柱銘氏(81)が25日までに産経新聞のインタビューに応じ、香港市民の基本的人権に制限を加える「国家安全法」を香港に導入することは「香港基本法違反だ」と指摘、「●(=登におおざと)小平氏が創出した『一国二制度』の失敗を世界に宣言するに等しい」と述べ、中国当局に撤回を要求した。

 香港の一国二制度は、中国の社会主義体制下で、表現や集会の自由を認めた英領時代の資本主義を2047年まで容認するものだ。だが、国家安全法が香港に導入されると、香港でも中国本土同様、国家分裂や政権転覆、組織的なテロ行為、外国勢力による干渉が摘発の対象となる。

 国家安全法を香港に導入する法案は、中国の全国人民代表大会(全人代)で28日に可決される予定だが、法律の詳細はその後、全人代常務委員会が制定する。香港の憲法に相当する基本法は18条で、中国本土の法律を香港に適用することは条件付きで認めている。

 だが、李氏は今回の法律は「全人代常務委が香港のために制定する香港の法律」であり、中国本土向けではないと指摘。「香港で施行される法律は、香港の立法機関が制定する」と基本法で明確に規定されており、「全人代常務委が香港の法律を制定するのは、違法であり無効だ」と主張する。ただ、基本法の解釈権は全人代常務委にある。李氏側が法廷闘争を試みても、最終的に無効を勝ち取ることは不可能に近い。

 中国側が国家安全法を強引に香港に導入しようとする理由については、「(9月6日予定の)香港の立法会(議会)選で民主派が過半数を制するのを恐れているからだ」とみる。昨年11月の香港区議会選のように、民主派が大勝し多数を占めれば、立法会で予算案や重要法案が通らなくなる可能性がある。それでも、全人代常務委が香港の法律を制定する「先例をつくってしまえば、立法会が機能しなくなっても中国当局は対応できる」と李氏は語る。

 また、立法会選に出馬する民主派の候補者や当選者を国家安全法を利用して摘発し、資格停止などに追い込むこともできるという。

 同法は、立法会選前の8月中の制定が可能と報じられており、全人代の5月開催はぎりぎりのタイミングだったといえる。李氏は「絶望はしていない。間違っているのはわれわれではないからだ。戦い続ける」と強調する。

 ただ、昨年の逃亡犯条例改正問題のように香港で制定する法律は抗議デモを通じて香港政府に撤回させることができても、今回の国家安全法は北京が制定する極めて異例のケースで、国際社会に支援を求めるほか手立てがないのが実情だ。

     ◇

 李柱銘氏 香港民主派の最大政党、民主党の初代主席。英領香港時代から香港の民主化に尽力し1980年代、基本法の起草委員として基本法の制定にかかわった。2008年まで立法会(議会)議員。違法集会に参加したとして4月18日に逮捕・起訴され、現在保釈中。

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