新型コロナウイルスの感染拡大を受けて東京五輪・パラリンピックの延期が決まり、ついには7都府県に緊急事態宣言が発令された。ここに至るまで、関係者の足並みはそろっておらず、朝令暮改状態が続いてきた。
「予定通り開催する」と発言し続けてきた国際オリンピック委員会のトーマス・バッハ会長は、3月12日には「世界保健機関の助言に従う」と開催の是非や延期の可能性を否定しなかった。東京五輪大会組織委員会の高橋治之理事が同11日に「別のプランも考えなければいけない」と発言するや、森喜朗委員長は「計画を変えることはない」と火消しにかかった。日本オリンピック委員会の山口香理事が「アスリートファーストではない。延期すべきだ」と発言するや、山下泰裕会長は「そういう発言をするのは極めて残念」と否定した。
私は、足並みがそろっていないことも、朝令暮改状態が続いていることも、歓迎すべきことだと思えてならない。なぜなら、未知のウイルスに直面して、誰も何も真の正解に行き着いていない段階だからだ。
むしろ、懸念すべきは、足並みがそろいすぎてしまうことだ。その最たる例が、全国の小・中・高等学校の一斉休校だ。
2月27日の安倍晋三首相の要請を受けて、文部科学省は全国の学校へ通知、「期間や形態は設置者において判断することを妨げない」としていた。しかし、高等学校で一斉休校に踏み切ったのは、47都道府県中、島根県を除く46都道府県に上った。3月8日時点で感染者が発生していない都道府県は14あったにもかかわらずだ。
一斉休校すべきだったか否かを議論しようとしているのではない。一斉休校したから感染が減速したのかもしれないし、一斉休校しなくてもよかった都道府県があったかもしれない。それはいずれにせよ結果論だ。問題は、感染拡大防止と教育機会提供を両立させる方策として、一斉休校以外の選択肢を、各自治体が検討したかどうかだ。
例えば、島根県のように県内に感染者が出るまでは通常授業を行うという判断を下す自治体が他にあるべきだと思う。通学路の状況を見て、自宅待機させる学区を特定する方法もあったかもしれない。登校日を隔日にして、教室内の密集を避ける方法もとりえたかもしれない。一斉休校したが、感染者が出ていない都道府県では、早々に一斉休校を解除してもよかったのかもしれない。
ほとんどの都道府県が一斉休校になだれ込むというそろった足並みと、朝令暮改が全くない状況が危惧されるのだ。感染者が発生していない地域で、屋外で児童同士の間隔を空けるなど感染防止の配慮をして入学式を実施した学校もあれば、入学式を延期した学校もある。これでよいのだと言いたい。感染発生が減少していない段階での学校再開を危ぶむ声もあれば、学習の遅れを取り戻させたいという要請もある。緊急事態宣言や措置にのっとりながら、あるいは対象外の地域は参考にしながら、感染状況によって地域ごとにさまざまな対応が取られることを期待する。
国が実施すべきことは、全国一律の行政で全ての地域の足並みをそろわせることではなく、地域ごとの状況に応じたさまざまな解決策をマネジメントしていくことだ。状況に応じて方針転換することを許容すべきではないか。緊急時こそ、画一主義的な思考に陥ってはならない。
【プロフィル】山口博
やまぐち・ひろし モチベーションファクター代表取締役。慶大卒。サンパウロ大留学。第一生命保険、PwC、KPMGなどを経て、2017年モチベーションファクターを設立。横浜国大非常勤講師。著書に『チームを動かすファシリテーションのドリル』『ビジネススキル急上昇日めくりドリル』(扶桑社)、『99%の人が気づいていないビジネス力アップの基本100』(講談社)。長野県出身。