英バード&バード法律事務所・北京 道下理恵子弁護士に聞く
肺炎を引き起こす新型コロナウイルスの感染拡大が続いている。中国進出中の日本企業の知財・法務部門は今後どう動くべきか。在中二十余年、英バード&バード法律事務所・北京の道下理恵子パートナー弁護士に聞いた。
--事務所は稼働しているのか
「幸い当所は、在宅隔離規制が出る前に所員の大半を北京に戻していた。多くの法律事務所は所員の帰省先待機を選択。北京に戻ってさらに2週間待機を余儀なくされた。外出は居住区の管理委員会発行の証明書を携帯する規則。所在地を当局が把握するため、個人の携帯電話に専用アプリのダウンロードが義務付けられている」
--企業活動は停止中か
「違う。例えば北京にあるソフト・情報サービス関連の大企業122社中106社、中小企業3081社中1887社が何らかの形で活動を再開。日本企業は日東電工や三井住友海上火災保険などが業務を開始した。自動車会社は、米テスラや独BMWに続き、2月24日にトヨタ自動車が稼働した」
--業績の落ち込みが懸念される
「53%のサービス業が年度事業計画を見直した。半面、政府が活動継続を許した通販は好調。EC(電子商取引)サイトの京東は春節三が日、食糧・穀物・油が前年比15倍、乳製品は3倍だった。青果農家も直販で潤った」
--知財侵害訴訟に影響は出ていないのか
「北京では立案(提訴)は弁護士が書類を裁判所へ持参する規則だが、オンライン申請が認められた。各地の裁判所も同様。今後、一般化するのでは。判事はフル登院しておらず、判事による当事者聴取は遅れている。騒動収束後も裁判運営への影響が残るのは明らかだ」
--侵害を受けている企業は状況が長引く
「そうなる。このため法曹界の有識者の間ではオンライン裁判の実施可能性もささやかれ始めている。ただ、当所が被告企業や侵害が疑わしい企業を内々に調査したところ、事業再開が遅れている企業が多かった」
--日本企業はどう対応すべきか
「訴訟戦略の練り直しが求められる。普通、日本企業は行政摘発や警告状発出後に訴訟という手順を踏むが、訴訟へすぐ切り替えられる準備や最初から訴訟というのも検討すべきだ。地域企業も打撃を受けており、侵害企業であっても、地域行政機関が外国企業のために動けるかは微妙だ。訴訟には証拠が必要だが、今後、侵害の有無を分析する中国の専門機関の混雑が予想される。今から押さえておくか、日本国内の専門機関で分析しておくといった手当てが必要になると思われる」(知財情報&戦略システム 中岡浩)