専欄

中国経済・新型肺炎による農民工不在が再開の足かせに

 前々回の当コラムで、中国では都市化が進んでいるものの、依然として都市戸籍を取得していない農民工が数多くいると指摘した。今回の新型コロナウイルスでは、春節(旧正月)休みのために一斉に帰郷した農民工が各地での感染を助長した。そして春節が終わってからは、多くがそのまま農村部に留まっていて仕事に復帰できず、生産再開の大きな足かせになっている。(拓殖大学名誉教授・藤村幸義)

 人事社会保障省によると、2019年の農民工数は約2億9000万人で、このうち他の省市への出稼ぎ農民工は約1億7000万人である。農民工を多く送り出しているのは、河南、安徽、湖南、江西、四川といった省である。一方、受け入れているのは、上海、広州、深セン、北京、蘇州などの諸都市だ。武漢にも200万人を超す農民工がいる。

 新型コロナウイルスの感染地域をみると、湖北以外では河南、安徽、湖南といった省が目立つ。春節前に武漢から感染したまま帰郷してしまった農民工が多かったからだろう。

 春節後は、帰ろうとしても簡単には帰れない。出入りを封鎖している地域がまだ多い。全国の鉄道・航空の旅客数をみても、依然として昨年同期に比べ2割程度しか動いていない。とりわけ武漢は中国の「へそ」とも言える位置にあり、交通の要衝だけに、ここが封鎖されているのは痛い。

 中国メディアはビッグデータなどを使って、春節後の工場における操業再開率を算出しているが、2月下旬に入ってからも全国主要都市の平均では4割に達していないという。

 都市部に働きに出ている農民工は、それほど高学歴ではないが、年齢は若い。都市部の工場は彼らがいなければ、操業率を上げることができない。特に多くの農民工が働いている建設業は影響が大きい。不動産や設備投資関連の工事は、まひ状態が続いているようだ。

 政府、企業は経済活動を一刻も早く正常化しようと躍起になっているが、現状ではなかなか厳しい。農民工が都市部に戻れたとしても、すぐに仕事場に復帰するとはかぎらない。「多くの人が集まる仕事場に行けば、感染のリスクが高まらないか」「マスクは支給してくれるだろうか」などの不安が十分に解消されていないからだ。

 わずかな救いは、教育やITなどの分野で、在宅などで働くテレワークが増えていることだが、農民工不在をどこまでカバーできるだろうか。

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