【世界を読む】
日韓の「働き方改革」を話し合うフォーラムが昨年12月に京都で開かれ、文在寅(ムン・ジェイン)政権が掲げる「週52時間労働制」など労働者の待遇改善を目指す政策に関し、多くの分野で実現せず、一部では後退していると報告された。経営者側の反発が強く労使のはざまで行き詰まっているためだが、実行力の伴わない政権に労働者側の視線も厳しさを増している。韓国の有識者からは「左回りで右傾化した」と痛烈な批判が飛び出した。(石川有紀)
週52時間、中小企業に拡大困難
「働き方改革フォーラム」は昨年12月14日、京都市伏見区の龍谷大学で開かれ、日韓の労働問題の専門家らが集まった。
韓国では労働時間の上限を週68時間から52時間に短縮する改正勤労基準法が、2018年7月から施行され、まず従業員300人以上の事業所や公的機関に適用された。20年1月からは、従業員50人以上の企業に適用が拡大されるはずだったが、中小企業の反発を受けて昨年11月、韓国雇用労働部は「十分な啓蒙(けいもう)期間を置く」として、事実上延期した。厳しい経済情勢を受け、労働政策の急変に対する経営者層の反発は強い。
フォーラムで韓国・中央大のイ・ビョンフン教授は、文大統領の選挙公約でもあった週52時間制や20年に最低賃金1万ウォン(日本円で約950円)を目標とした大幅な賃金引き上げなどの労働政策に対し、経済界が強く反発したほか、世論にも雇用改善を実感できない不満が高まったと指摘。その結果「政権与党は18年後半に政策継続が難しいと判断し、労働政策の方向性が変わってしまった」と分析した。
「実行能力が不足」
その代表的な例が、週52時間制導入に対応する形で、繁忙期などに労働時間の上限を超えて働くことを想定した「弾力的労働時間制」の期間拡大だ。従来は最長3カ月だったが経済界が期間拡大を求め、労使が激しく対立。韓国の2大労働組合のひとつで政権支持母体でもあった全国民主労働総連盟(民主労総)が労使政の代表者会議への不参加を決め、民主労総を除く労使政の代表者会議で最長6カ月以内へと延長することで合意したという。
イ教授は、文政権発足後2年の労働政策について、民主労総は「労働政策分野69個中35個が未履行か改悪」と反発を強めている現状を報告。イ教授は「文政権は当初、労働者向けの社会の実現を掲げたものの、政策実行計画や実行能力が不足していた。結論としては、労働政策は(労働者側の立場である)左回りすると見せかけて右傾化した」と批判、残る任期での公約実行を求めた。