岐阜県の老舗蔵元が中東トルコに日本酒を初めて輸出し、先ごろ最大都市イスタンブールの和食店のメニューに登場した。トルコは食品やアルコールの輸入規制が厳格で、日本の地酒は流通していない。時間と手間をかけ輸出を実現した蔵元は「日本酒の豊かな魅力がトルコに広まるきっかけになれば」と望んでいる。
店の奥にある酒類の棚に純米吟醸や大吟醸の瓶が並ぶ。世界十数カ所に展開する高級和食店「ZUMA(ズマ)」のイスタンブール店。「客の反応はとても良い。飲んで感動を表情に出す人もいる」。ソムリエ担当、エレナ・ハヤトさんが笑顔で語った。
ズマが取り扱いを始めたのは1702年創業「中島醸造」(岐阜県瑞浪市)の日本酒「小左衛門」だ。
トルコは国民の大半がイスラム教徒だが、政教分離の世俗主義が国是で、飲酒文化が豊か。しかし、ビールやワインが広く飲まれる一方で、日本酒の知名度は低い。厳しい輸入規制もあり、これまでは、米国でつくられた日本酒が小規模で流通するだけだった。
ハヤトさんは高品質の日本の地酒を店に導入したいと希望。ズマのアラブ首長国連邦ドバイ店の日本人ソムリエにも相談し、「日本酒らしい日本酒」として小左衛門を選択。トルコの輸入業者を通じ、中島醸造に取引を打診した。
欧州やアジアなどに輸出実績のある中島醸造側も2018年5月にトルコで現地調査し、商談を進めたが、煩雑な書類作業や許可手続きがネックに。ただ、日本貿易振興機構(ジェトロ)の支援も受け輸出を実現した。ジェトロは「日トルコ間の食品ビジネスは難しい」という従来の認識が変わる契機になればと期待する。
中島醸造の中島崇貴顧問は「トルコに日本酒が広まる可能性は十分あると思う」と話し、今後の積極的な輸出に意欲を示す。ハヤトさんも「将来的には日本の酒だけを扱いたい」とし、他の蔵元の地酒もメニューに加えたいと意気込む。(イスタンブール 共同)