米中両政府の貿易協議は13日に「第1段階」の合意に達し、1年以上にわたって制裁関税を掛け合っている「貿易戦争」は一時休戦となった。米国株が最高値を更新し、金融市場は歓迎ムードだが、正式署名は来年1月以降、合意内容をめぐる認識のずれも生じている。大統領選を意識する米政権と、景気失速を警戒する中国指導部が互いに実利を優先した薄氷の合意で、先行き不安も残る。
「驚異的な合意だ。とても多くの工業製品や農産品を網羅している」。トランプ米大統領は13日、記者団に誇らしげに語った。中国が購入する米農産品は過去の実績の2倍となる「年500億ドル(約5兆4000億円)」。来年11月の大統領選再選へ、農家にアピールする狙いが透ける。
米政権は巨額の対中貿易赤字を問題視し、中国に貿易不均衡の是正や、産業補助金の見直しなど構造改革を要求してきた。包括的な協定に持ち込む算段だったが、5月に「95%まで決着」(トランプ氏)した合意寸前で中国が待ったをかけた。
トランプ氏は制裁対象を中国からの全輸入品に拡大すると拳を振り上げたが、長引く交渉と制裁合戦で、大豆や豚肉の中国向け輸出は激減。スマートフォンなどを中国で生産する米大企業も反発し、製造業への悪影響も見過ごせなくなった。米政権は、景気悪化を招けば来年の大統領選に不利になると判断し、抜本的な改革を先送りする部分合意に軌道修正した。
部分合意を受けて株価は上昇。ニューヨーク市場のダウ工業株30種平均は史上最高値を更新した。
しかし、中国は第1段階合意で米農産品の購入額を明示していない。米側が早期開始に意欲を示す「第2段階」の交渉にも慎重だ。米議会からは「期待を裏切った」と批判的な声が上がる。貿易問題以外にも、技術覇権や安全保障をめぐる米中対立は続いており、トランプ氏が再び制裁強化に傾く可能性は捨てきれない。