高論卓説

米中対立…アメリカの究極目的は中国共産党の壊滅? 日本の役割は

 昨年3月に始まった追加関税を相互に引き上げる米中貿易戦争は、徐々にエスカレートして同10月のペンス副大統領演説により、アメリカは中国との対決姿勢を明確にした。またアメリカは昨年末に華為技術(ファーウェイ)の副会長をカナダで拘束し、アメリカで裁判にかけるという動きをする一方、今年に入りファーウェイ製品の禁輸を決めて、これを同盟国にも呼び掛け、貿易戦争は、ハイテク分野の覇権争いに発展している。

 これに続き今年6月に始まった香港の民主化要求デモに関し、トランプ大統領は11月、アメリカ議会が承認した香港人権法に署名し、中国との対立は一層先鋭化している。これに対し、中国政府は直ちに報復措置を発表し、米中対立はお互いに後に引けない状況に陥っているように見える。

 貿易戦争で始まった米中対立は、ハイテク覇権、香港問題、ウイグル人弾圧問題など、中国共産党の基本路線と真っ向からぶつかる展開となっている。アメリカとしてもハイテク覇権の維持、民族自決、宗教の自由といった、国家の基本理念に関わる問題だけに、米中の歩み寄りは難しいと思われる。

 筆者は米中対立におけるアメリカの究極の目的は中国共産党の壊滅にあるのではないかとみている。1983年にアメリカのレーガン大統領は「スターウォーズ計画」を発表し、当時のソ連に宇宙軍拡競争を仕掛け、ソ連の国力の消耗を狙った。その結果8年後の91年、ソ連は崩壊した。宇宙軍拡競争をソ連に仕掛けた段階で、アメリカはソ連共産党の壊滅を目的としていたと考えられる。アメリカは日本に対しても、日露戦争終結直後から日本攻略を目的とした「オレンジ計画」という長期戦略を策定し、40年後にはこれが実現することになった。

 アメリカは自らの世界覇権を守るためには、長期で慎重な戦略を策定し、これを挙国一致で実行に移す能力のある国であることを忘れてはならない。

 日本としては米中対立の中で、中国共産党とアメリカ覇権主義のいわば一神教同士の終わりなき不毛な戦いには巻き込まれずに、「和を以って尊しとなす」という聖徳太子以来の和の精神を基に、日本独自の共存共栄の世界観を世界に示し、不毛な対立を回避する義務があるのではないか。日本国内で米中いずれかの意をくみ、日本人同士お互いにいがみ合ったり、強い方に従う劣位戦の発想ではなく、日本人独自の世界観と歴史観に基づいた平和への道を両国に提示すべきである。

 一神教同士の戦いといえば、キリスト教徒とイスラム教徒の殺し合いは1096年に始まった第1回十字軍から数えて、現在に至るまで900年以上続いており、今でも西欧諸国の国民はイスラムのテロにおびえている。11月末に起こったロンドン中心部でのイスラム過激派によるテロに示されるように、キリスト教徒とイスラム教徒は21世紀の現在でも、殺し合いを続けているのである。

 日本は第一次大戦後のパリ講和会議において、史上初めて国家として人種平等を提唱し、この時はアメリカのウィルソン大統領の独断により廃案とされたが、第二次世界大戦を経て、人種平等の世界が実現したのである。日本は歴史をリードする理念を提唱できる国家であることを日本人は忘れてはならない。

 日本は米中の間に入り、アメリカと中国の世界覇権主義を超越する理念を提唱し、両国を動かし、世界人類の平和の実現に向けて努力すべきである。米中対立にせよイスラム過激派のテロにせよ、一神教同士の戦いには終わりがない。

【プロフィル】杉山仁

 すぎやま・ひとし JPリサーチ&コンサルティング顧問。1972年一橋大卒、旧三菱銀行入行。米英勤務11年。海外M&Aと買収後経営に精通する。著書『日本一わかりやすい海外M&A入門』他、M&Aと買収後経営に関する論文執筆と講演多数。昨年3月に発表された経済産業省による『我が国企業の海外M&A研究会報告書』作成にも参加している。東京都出身。

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