既に旧聞に属する話となってしまったが、何かにつけて頭に浮かぶのが、新中国建国70周年祝賀式典の一コマである。(ノンフィクション作家・青樹明子)
市民参加のフロートに「中国の子供たち」という車があり、文字通り、子供たちが主役だった。この日の式典には、1400人もの小中学生が参加したという。
フロート登場と同時に合唱が始まったのだが、最前列で歌う子供たちは、ほんの十数人である。「選ばれた」子供たちだ。見るからに賢そうなうえ、一人一人が子役スターのようにかわいらしい。容貌だけではないだろう。成績、家庭環境、両親の社会的背景も抜きんでているはずだ。この場に到達するには、どれほどの競争があったのだろうか。
中国で「選ばれる」のは、並大抵なことではない。
競争のすさまじさは大学入試に現れているが、それを上回るとされるのが、毎年11月に行われる「公務員試験」である。2020年度は11月24日に筆記試験が始まり、基本的な資格審査を通過した143万人が、2万4000人の枠を目指して試験に臨んだ。単純計算で競争率は60倍である。
中国の公務員は、日本のように新卒優先ではない。採用条件に「実務経験」を問うものが多く、今年の特徴は、多くのポジションで、専門的スキルの能力審査がより厳しくなっていることだという。結果、競争の質がレベルアップすることになった。
具体的には応募している人たちの現職がすごい。「中央〇〇局〇〇部長」「国家△△管理総局総合課長」など既に役職にある人たちが、競争に参画しているのである。採用される可能性は「千里挑一」つまり「ごくわずか」と言われるゆえんである。
こんな過酷な競争で、ほとんどの応募者が「給料の額」を尋ねないのだそうだ。専門家は「たとえ期待値に満たない給与であっても、過酷な競争を勝ち抜いたという実績、そして新たに付与されるキャリアは、今後のビジネス人生に大いに役立つからだ」と分析する。
中国の子供たちは、生まれ落ちたらそこは天国である。しかしそれもほんの1、2年で終わってしまい、2歳を過ぎた頃から、既に将来へ向けた過酷な競争が始まるのである。
中国の人口は約14億人で、日本の10倍以上である。分母が大きいと、言うまでもなく、競争の度合いも半端ない。
われわれの身辺には、多くの中国人がいる。彼らがここに存在するのは、14億の競争を勝ち抜いてきたエリート集団の一人だと言って過言ではない。