大赤字で本当に反省しているのか
11月6日、ソフトバンクグループ(ソフトバンク)が2019年7~9月期の連結決算を発表した。それによると、最終損益は約7002億円の赤字だった。これは、四半期ベースで過去最大の赤字だ。グループを率いる孫氏は「大赤字で反省している」と述べた。
巨額の損失が発生した背景の一つには、ソフトバンクがかなり急いで成長を追求してきたことがある。同社は、世界有数のIT先端企業を糾合することを目指している。ただ、成長にこだわるあまり、やや高値での株式取得が重なったことに加えて管理体制が甘くなってしまった。そうした事態は、いってみれば“急成長に対するコスト”といえなくもない。
また、ここへきて世界経済に関する不確定要素が増えていることもマイナスの要因として働いた。世界全体で非製造業は安定を保っているものの、米国の保護主義的な政策の影響もあり、サプライチェーンの分断などで製造業の景況感が不安定化している。
米中貿易摩擦の影響などを考えると、当面、短期間で投資家のリスク許容度が大きく高まる展開は期待しづらい。そうした状況下、ソフトバンクが成長エンジンのパワーを維持できるか注目される。
経営は「ボロボロ」
足許、ソフトバンクの経営は厳しい状況に直面している。7~9月期の業績は、孫氏自ら『ボロボロ』と評するほどだ。とくに、ソフトバンクが重視してきた事業戦略が、想定された成果を実現できなかった事態は深刻といわざるを得ない。
ソフトバンクは、未上場のスタートアップ企業に積極的に投資を行い、新規の株式公開(IPO)を実現して株を売却し、利得を手に入れることで成長(企業価値の増大)を目指してきた。具体的に、ソフトバンクは、創業者である孫正義氏の企業家(創業者)の「資質を見極める力=眼力」によって買収や新興企業への出資を重ね、業績拡大を実現した。
さらなる成長を目指し、ソフトバンクは10兆円規模の“ビジョン・ファンド”を設定し、IT先端企業やスタートアップ企業への出資などを積極的に進めてきた。
積極的な投資より大切なこと
やや気になることは、ソフトバンクが成長を追求するあまり、企業家の資質や新興企業の体制を冷静に見極めることを軽視してしまった部分があると考えられることだ。ソフトバンクは米オフィスシェア大手ウィーワークを運営するウィーカンパニーのコーポレート・ガバナンス上の問題点を十分に把握できなかった。
ウィーカンパニーのIPOが延期され、資金繰り懸念が高まり、企業価値が毀損された。この結果、7~9月期、ソフトバンクはウィーカンパニーへの投資から約82億ドル(約8900億円)の損失(評価引き下げ)を被った。
ソフトバンクの投資戦略は、利害関係者の不安も高めている。当初、ソフトバンクはサウジアラビア政府などから出資を募り、第2号のビジョン・ファンドの運営を開始しようとしたが、ウィーカンパニーのIPO延期などを受け、サウジアラビアは第2号ファンドへの出資を決められていないとみられる。
第2号ファンドはソフトバンクの資金を用いて投資を進めている。足許、ウィーカンパニーがリストラを進めていることなどを考えると、ソフトバンクの積極的な投資スタンスは冷静に見直されるべき時を迎えているといえるだろう。
ソフトバンクと世界経済の相関関係
ソフトバンクの業績悪化につながった背景の一つとして、「世界経済の基礎的な条件=ファンダメンタルズ」が大きく変化してきたことは見逃せない。
2017年5月にソフトバンクが第1号のビジョン・ファンドを設定した時、世界経済は比較的堅調に推移していた。とくに、米国のGAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)をはじめ、世界のIT先端企業の成長期待は高かった。
半導体業界の一部では、人工知能(AI)の開発と実用化に向けて、高性能のICチップやDRAMなどのメモリー需要が飛躍的に高まるという強い期待もあったほど、先行きへの楽観が多かった。