粉飾決算が原因となって倒産する企業が国内で急増している。東京商工リサーチによると、人件費の高騰や景気減速で資金繰りが悪化し、銀行に借入金の返済猶予を求めた際のヒアリングなどで発覚することが多く、数十年間にわたり粉飾を続けてきた事例もあった。個人情報保護法の施行で銀行同士が顧客情報の交換をしにくくなったことが悪用されているとみられ、金融機関が警戒を強めることで長年の粉飾が露呈する事例は今後も増えそうだ。
埼玉県などで焼鳥店30店舗を運営していた「ひびき」が、東京地裁に民事再生法の適用を申請したのは8月20日のこと。負債額は77億900億円にのぼる。
東松山名物の本場「みそだれやきとり」をウリに事業を拡大したが、法人税の滞納を解消するため架空の売り上げを計上し、財務内容を良く見せることで納税資金を金融機関から調達。見せかけの好業績を背景に金融機関から出店ペースの加速や企業買収を持ちかけられ、人件費負担などで経営が圧迫されていった。
商工リサーチの集計では、こうした粉飾決算倒産は今年1~10月で前年同期比2倍の16件に上り、昨年通年の9件を既に上回ったほか、2年ぶりに20件台に乗る可能性がある。
産業別ではアパレルなど卸売業が7件と最も多く、建設業や製造業、サービス業他が2件と続く。担当者は「粉飾決算の期間が40年、15年、10年など長期にわたることが今年の特徴だ」と分析しており、長年隠し続けた“膿(うみ)”が今年に入って吹き出している。
背景にあるのが、景気減速と人手不足による人件費の高騰だ。
内閣府が今月8日発表した9月の景気動向指数では、基調判断が2カ月連続で景気後退の可能性が高いことを示す「悪化」となった。米中貿易摩擦の長期化を背景に輸出企業の業績悪化が続き、経済の停滞感が強まっている。また、人材確保の経費は企業経営を圧迫しており、商工リサーチがまとめた人手不足関連の倒産は1~10月で334件(前年同期324件)と、通年では過去最多を記録した昨年の387件を上回る勢いだ。
地方銀行大手、コンコルディア・フィナンシャルグループ(FG)の川村健一社長は「何年も前から事業に問題があり隠していた企業が、息切れを起こしている。景気のいい時期が長く続くと、格好をつけてきた会社の粉飾が出てくる」と指摘する。
とはいえ、表面化したのはあくまで「氷山の一角」に過ぎないとの見方もある。商工リサーチでは平成15年5月の個人情報保護法成立で、顧客情報保護の観点から金融機関の横のつながりが希薄になり、粉飾に悪用されていると分析する。
例えば、クラフト用品や裁断用品などの企画販売を手掛けた「サンヒット」は、20行以上の取引金融機関ごとに決算書を作成し、海外進出の投資失敗で抱えた赤字を隠すため15年間にわたり粉飾決算を続けた。他行用に作った決算書を別の金融機関に提出してしまったことで発覚したとされ、5月14日に東京地裁に民事再生法の適用を申請した。
だまされた金融機関側は疑念の目を強めているが、支援を打ち切れば損失が確定するため、難しい判断を迫られる。担保より貸出先の将来性や事業内容を重視して融資を決める「事業性評価」の浸透で、融資先企業のヒアリングが以前より増加していることもあり、「粉飾を隠しきれない事例が今後さらに増えてくるだろう」(商工リサーチ担当者)とみられている。(田辺裕晶)