主張

和牛の遺伝子 知的財産守る態勢固めよ

 和牛の遺伝資源は日本の知的財産である。

 長年の努力で品種改良を積み重ねてきた国や自治体、生産者らの努力の結晶ともいえる。

 質の良い和牛が海外で生産されれば、日本の畜産農家は大きな打撃を被る。国外への知的財産の流出を防ぐため、法改正と流通管理強化の両面から態勢の構築を急ぐべきだ。

 大阪在住の男らが和牛の受精卵を中国に持ち出そうとした事件が昨年7月に発覚したことがきっかけだ。

 この事件では、大阪地裁で今月13日、受精卵などを譲り渡して家畜伝染病予防法違反幇助(ほうじょ)罪に問われた徳島県内の元牧場経営者の初公判が開かれた。検察側は「品種改良の成果である高級和牛の独占的生産を崩壊させ、畜産農家の経営悪化を引き起こす恐れのある悪質な行為だ」として懲役1年2月などを求刑し、即日結審した。

 今年6月には、元牧場経営者から受精卵を受けとった仲介役の男と中国に運び出した男が同法違反の罪で執行猶予付きの有罪判決が確定している。

 ただし、同法に基づく輸出検査で海外への不正流出を防ぐことには限界がある。家畜伝染性疾病の発生や蔓延(まんえん)の防止を目的としており、遺伝資源の海外流出を想定していないためだ。

 このため農林水産省は、専門家も交え、和牛の精液や受精卵を遺伝資源として保護するための新たな制度づくりに着手した。流通管理の強化と、知的財産保護の両面から不正流出を防ぐことが狙いだ。流通管理では、精液や受精卵を保管するストローと呼ばれる器材に種雄牛(しゅゆうぎゅう)の名前や入手先、販売先などを明示して帳簿に残すことを義務付ける。

 知的財産の保護策としては、民間の売買契約を破る不正取得に罰則規定を盛り込む家畜改良増殖法の改正や、新法の制定を検討している。

 法の抜け穴を埋め、不正流出に歯止めをかける意味は大きい。和牛の遺伝資源は海外から狙われている。類似品種が出回り、和牛のブランド力を失えば、これを取り戻すことは難しい。

 和牛の精液や受精卵の場合、植物の種子と違って品質の均一性を担保することが難しく、知的財産として保護しにくい側面もある。だからこそ、実情に即した法整備や管理強化が求められている。

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