1995年以降に生まれた若者の退職願が、最近中国のインターネットで話題になっている。これまでの「一身上の都合により」のようなひな型とは大きく違い、特色があって、実に面白い。(ノンフィクション作家・青樹明子)
江西省の19歳の女性は退職理由欄にたった一言、こう記した。
「風のように自由に生きたいから」
「自由」は退職願のキーワードのようだ。
「夢の世界のように自由でありたい。故郷に帰って豚の飼育をするつもり」
スマートフォン世代の表現は簡潔だ。
「もう十分働いた。テレビドラマを見る時間のほうが貴重に思える」(本人は1年しか働いていない)
「いただくお給料では、あなたのお役には立てないと考えます」
「会社はまるで宮廷ドラマのよう。お后様に仕えるのはもう嫌」
ある統計によると90年代以降に生まれた若者は、平均すると7カ月で退職しているのだそうだ。
中国IT最大手のアリババグループは、10万以上の従業員を抱えている。多くは若者たちで、馬雲(ジャック・マー)会長は「(一般的に)従業員の離職理由はだいたい2つに分かれる」と言う。「給料の額が不満」「(人間関係や仕事内容全てに対し)精神的に我慢できない」である。
日本も大差ないが、中国には特有の事情もある。
中国で流行語になった「996」は、馬会長が提唱したもので、「月曜から土曜までの週6日勤務、就業時間は、朝9時から夜9時まで」という意味である。批判が集中したため、会長自ら取り消したが、今の中国では、特に珍しいことではない。
最近急成長している某IT企業では、勤務時間は朝9時から夜中の2時までというのが週に何日も続く。帰る時間がないので、そのままオフィスで仮眠をとり、翌日9時には仕事開始である。食事の時間もろくに取れず、オフィスには、コーヒー、お茶、サンドイッチ、ケーキなど軽食が常に用意されているのだそうだ。
私の友人は、ITではないけれど、土日も休めず、毎日サービス残業が続いている。
若者たちは日本人以上にお金持ちになり、家を買い、車も買い、春節(旧正月)には海外に旅行する。外食先は高級レストラン。それを実現させているのは、命を削るようにして得たお金だと言っていい。たとえ1年でも、相当に疲労するだろう。
「24時間戦えますか」というのは、日本のバブル時代のCMだが、中国の働き方を見ると、こんな言葉が浮かんでくる。いつか来た道、戻りたくない道。