清華大学・野村総研中国研究センター 川嶋一郎
野村総合研究所(NRI)では数年前から、中国事業における「不察知のリスク」への対処が不可欠であることを提言してきた。日中関係が好転し、反日デモのようなリスクは低下したが、他方で、事業環境の変化を十分に把握できない「不察知のリスク」が高まっている。身の周りで起きている変化を的確に察知できなければ、対応が後手に回ってしまう。
速く大きな環境変化
中国事業で「不察知のリスク」が高まっている主な要因は、事業を取り巻く「環境変化の速さと大きさ」である。経済成長の「鈍化」が言われる中国だが、日本の3倍近い規模にまで成長した経済体が毎年6%を超える成長を続けている。スマートフォンを使ったさまざまなサービスが浸透したことで、庶民生活もわずか数年で大きく様変わりした。中国は、このように世の中全体が大きな変化を続けており、個別の事業を取り巻く環境も日々大きく変化している。
「不察知のリスク」をもたらすもう一つの要因は、中国における情報取得の難しさである。中国社会におけるマスメディアの位置付けは日本とは異なる上、広大な国土に膨大な人口を有していることもあって、マスメディアからの情報だけで世の中の動きがつかめるわけではない。また、中国では、企業活動に対する政府政策の影響力が看過できないが、習近平政権下でその影響力はますます大きくなっている。しかしながら、外資系企業が、中央政府、地方政府を問わず政府関係者から情報を入手するにはさまざまなハードルが存在する。