ミャンマー北部カチン州でのミッソンダム開発計画を再開するのか、それとも最終的に中止とするのか。ミャンマー政府としてはインフラ開発が遅れているだけに、中国からの資金的な援助は喉から手が出るほど欲しいが、環境破壊を懸念する地元住民の反対を押し切るほどの勇気もない。しかしいつまでも放置しておくわけにはいかず、決断の時期が近づいている。(拓殖大学名誉教授・藤村幸義)
ミッソンダムは旧軍事政権時代に中国の支援で開発に着手した。ところが環境保護を求める声が次第に高まり、テイン・セイン前政権時代の2011年に建設凍結に踏み切っていた。
中国にとってミャンマーは、内陸部の雲南省とインド洋を結ぶ交通の要衝であるだけに、巨大経済圏構想「一帯一路」の中でも、重点地域と位置付けている。その中心となっているのが、インド洋沿いの港町、チャオピューだ。既に雲南省昆明との間を結ぶパイプラインが完成しているほか、港湾整備などさまざまなプロジェクトをミャンマー側に持ち掛けている。
16年に政権を握ったアウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相は当初、欧米日との関係を重視し、中国とは距離を置くかのようにみえた。同氏はミッソンダムについても建設反対の立場を取っていた。ところが次第に、中国への接近が目立ち始める。今年4月には北京で開催された「一帯一路」の国際会議に自ら出席し、習近平国家主席や李克強首相とも会見した。インフラ建設のための資金が欲しいだけでなく、混乱が続く少数民族問題でも、中国からの協力が不可欠と考えているからだろう。
もっとも習主席らとの会見では、中国側の報道を見る限り、さまざまな分野で協力をしていくことでは合意しているが、ミッソンダム問題には一切触れられていない。