米中貿易摩擦の激化を受け、日本企業が中国から生産拠点を移す動きが加速している。金属などの素材に穴を開けたり削ったりする工作機械メーカーの業界団体「日本工作機械工業会(日工会)」によると、今年に入って中国向け受注額は1年前と比べほぼ半減しているのに対し、ベトナムやブラジル向けが急増するなど“脱中国”をうかがわせるデータもある。米国が発表した中国からの輸入品に追加関税を課す対中制裁措置「第4弾」の対象にはスマートフォンやゲーム機、衣類など日本企業が強みを持つ消費財が多く含まれるが、中国外への生産拠点移転が関税増よりもコスト高を招くことも考えられ、対応に苦慮するケースは少なくない。
供給網見直し進む
耐衝撃腕時計「Gショック」が主力商品のカシオ計算機にとって、時計や楽器が第4弾の対象。このため、米国向け輸出分を、中国から日本やタイの工場へ切り替える方向で調整している。中国での生産分は他の国・地域への輸出に振り替える。同社の試算によると、これらの措置で追加関税による今年度の影響額は7億円から3.5億円に半減するという。
事務機器大手リコーはコピーやプリンターなどの機能を持つ複合機の米国向け生産に関し、中国からタイへの全面移転を決定。アシックスもランニングシューズなど一部製品で中国からベトナムへの生産移転を進める。建設機械大手のコマツは一部部品の調達先を中国から北米、日本などに切り替えている。
各社とも既にリスク対策でグローバルなサプライチェーン(供給網)を築いており、その中で対応している状況。経団連の中西宏明会長は「現実に日本企業のサプライチェーン見直しは進んでいる」と語る。大手商社はこうした動きを商機に捉え、ベトナムやミャンマーなどで展開する工業団地販売に期待を寄せる。住友商事はバングラデシュで工業団地の運営会社を設立することで合意した。
日工会がまとめた今年1月以降の国別受注額によると、前年同月比で中国向けの受注が毎月ほぼ半減しているのに対し、ベトナム向けは3月が約2.1倍、4月も6.8%増。ブラジル向けは3月が約2.7倍、4月が38.1%増と、堅調に数字を伸ばす。いずれも現時点では中国向けの10分の1以下だが、将来的に東南アジアや中南米などからの受注が増える可能性がある。