フィリピン政府とイスラム勢力の紛争が40年以上続いた南部ミンダナオ島で、イスラム教徒側が悲願とする自治政府の発足に向けた手続きが進んでいる。住民投票で領域が確定し、前身に当たる暫定政府も発足。今後、自治政府への移行作業が本格化するが、投票では参加に反対の意見が多数派だった地域もあり、治安面での火種を抱えた出発となった。
◆暫定政権が発足
「同じフィリピン人として平和に共存できる地域にし、過去の苦い記憶を消し去りたい」。2月22日、首都マニラのマラカニアン宮殿(大統領府)でドゥテルテ大統領が演説すると、大きな拍手に包まれた。この場で暫定政府の議員80人を任命。イスラム最大勢力、モロ・イスラム解放戦線(MILF)のムラド・エブラヒム議長を首相に選任し、暫定政府が事実上発足した。
これに先立つ1~2月上旬には、自治政府に参加する自治体を決める住民投票が実施され、ミンダナオ島西部のマギンダナオなど5州とコタバト市、さらに別の州内の63集落が参加することになった。5州の総得票は賛成が約154万、反対は約20万で、圧倒的な民意を得たかのように映る。
しかし細かく見ていくと、スルー州では反対が約16万4000票で、賛成の約13万8000票を上回った。5州全体を1つの選挙区と見なし賛否を決める規定のため、参加を余儀なくされ、州の民意と結果にずれが生じた形だ。
イサベラ市では反対票約2万2000が賛成票約1万9000を制した。北ラナオ州の6つの町も不参加となり、自治政府の地盤にはひび割れも目立つ。
暫定政府の議員80人はMILFから41人、中央政府などから39人とバランスを取った。だが投票結果が示すように、自治政府の支持度は地域によって濃淡がある。MILFが主導することに反対する勢力もおり、賛否が分かれた地域は治安面での不安定要素が大きい。
◆不満分子が活動
反対票が多数派だったスルー州ホロ島の大聖堂では投票の6日後に連続爆発が起き、市民ら23人が死亡した。治安当局は、あくまでも独立を目指す地元のイスラム過激派アブサヤフが関与したとして掃討作戦を進めているが、不満分子の活動が活発になれば和平プロセスに影を落とす。
イスラム教徒の自治権拡大で、開発が遅れてきたミンダナオ島西部の経済成長も期待される。ただ「果実」が公平に分配されなければ一般市民の不満も募りかねない。「反対派も分け隔てなく扱い、取りこぼしのない目配り」(地元記者)が問われることになる。(マニラ 共同)
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【用語解説】ミンダナオ紛争
フィリピンは国民の9割がキリスト教徒だが、南部ミンダナオ島の西部はイスラム教徒が多数を占め、1970年代以降に分離独立運動が活発化した。十数万人が犠牲になった紛争の末、2014年に中央政府とモロ・イスラム解放戦線(MILF)が自治政府樹立を柱とした包括和平に合意。暫定政府を経て22年に発足する自治政府は独自の議会や予算編成権を持ち、域内のイスラム教徒にはシャリア(イスラム法)が適用される。国旗と国歌に相当する旗と歌も制定する。(マニラ 共同)