環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)発効後初の閣僚会合が19日に東京で開かれ、安倍政権の2019年の通商外交が始動した。TPPを土台に自由貿易推進の足元を固め、春に想定される米国との厳しい貿易交渉に臨む。今年は20カ国・地域(G20)の議長国を日本が務め、6月の首脳会合を取り仕切る。米中の対立で国際協調は崩壊の瀬戸際にあり、反保護主義で議論をまとめられるか外交手腕が試される。
◆首相「輝ける未来を」
「アジア太平洋地域の輝ける未来を切り開いていきたい」。TPP会合の終了後に首相官邸で開いた記念式典で、安倍晋三首相は加盟国の閣僚らを前に意気込みを語った。
TPPは日本の交渉入りから5年を経て、昨年末に発効。自由貿易の輪が大きく広がることになったが、必ずしも手放しで喜べるわけではない。誤算は米国の離脱だ。
日本にとって「TPPによる最大の利点」(通商筋)とされる自動車輸出の拡大効果は米離脱により大きくそがれた。日本を除くTPP加盟10カ国のうち8カ国とは2国間の経済連携協定(EPA)を締結済みで、TPP発効以前から、日本が輸出する工業製品への関税は多くが撤廃されている。EPAが未整備のニュージーランドも、自動車に対する関税はもともと原則ゼロだった。
逆にオーストラリアやニュージーランド、カナダといった農業大国は、TPP発効を絶好の機会と捉え日本市場に攻め込む構えを見せている。日本の農業は牛肉や豚肉、乳製品を中心に試練にさらされることになる。
それでも日本政府がTPPを推進したのは「米国の焦りを誘い、本丸と位置付ける対米交渉を有利に進める」(経済官庁幹部)狙いからだ。米国産の牛肉には現在38.5%の関税がかかっているが、EPAを結ぶオーストラリアは既に20%台。TPP発効で最終的に9%まで下がる予定で、米国の農家は大きなハンディを背負う格好になる。
対日貿易赤字の削減を迫るトランプ米政権との貿易協議は難交渉が予想されるが、米国が日本ののめない要求を突き付けて交渉が長期化すれば、その分だけ米国農家が競争上不利な状態も長引くことになる。2月1日には日本と欧州連合(EU)とのEPAも発効する。TPPとともに、対米交渉の予防線となる効果に政府は期待を寄せる。
◆米中対立は長期化
対米交渉と並行して進む一連のG20会合では、議長国として日本が重責を担うことになる。中国と覇権を争う米国は、貿易問題にとどまらず、サイバー攻撃や少数民族への弾圧、海外への不透明なインフラ輸出にも批判の矛先を向ける。対立は長期化が避けられず、世界経済に深刻な影を落とす懸念が強まっている。
米国は昨年成立した国防権限法で、安全保障上の理由から、華為技術(ファーウェイ)など中国の一部通信機器メーカーの製品を米政府機関が使うことを禁止する規定を設けた。これらの製品を使う企業は米政府機関と取引できなくなる。日本の産業界からは「米国か中国かの二者択一を迫られてもグローバル企業は対応不可能だ」(重電メーカー)と不安の声が上がっている。
米中対立に翻弄されることなく、国際社会を協調へとどうまとめ上げるか。ある経済官庁幹部は「国際ルールに基づく解決を地道に働き掛けるしかない」と自らに言い聞かせるように語った。