【新欧州分析】英MI6長官が明かす「新時代の諜報活動」とは (4/4ページ)

昨年12月3日、英スコットランドで講演するMI6のアレックス・ヤンガー長官(AP)
昨年12月3日、英スコットランドで講演するMI6のアレックス・ヤンガー長官(AP)【拡大】

 MI6が危機感を抱くのは、デジタル全盛時代に英国では、2014年開設した調査報道サイト「ベリングキャット」(危険を冒して猫の首に鈴を付けるという意味)などの民間メディアが、公開情報を収集・分析して機密情報に迫る「オシント」(「オープンソース・インテリジェンス」の略)手法をジャーナリズムに導入して次々に成果を上げているためだ。

 「ベリングキャット」がロシア元スパイ襲撃事件で、公開されたパスポートなどからロシア軍参謀本部情報総局(GRU)の腕ききの大佐と軍医の犯行であることを突き止めたことは記憶に新しい。またフォレンジック調査といわれるデジタル鑑識で国際サッカー連盟(FIFA)の不正などを暴いたジャーナリストもいる。

 情報のプロである情報機関こそ、デジタルに習熟していち早く機密情報を入手する必要がある-。だからこそ、「(従来のような)オックスフォード大やケンブリッジ大卒の秀才のみならず、サイバー先端技術に習熟した人材こそ必要だ」と訴えた。

 一方でヤンガー氏は、時代が変わっても「情報活動の基本はヒューミント(人間を媒介とした諜報活動)」だとも強調。自身が、1990年代半ばにコソボ紛争で大量虐殺が行われていたバルカン地方に身分や名前を偽って潜入して土地の人たちと土地の酒を酌み交わし、信頼関係を築き、機密情報を次々と入手して虐殺を防いだ経験を初めて明かした。

 「どこの出身であるかは問題ではない」と、多種多様な出自や経歴を持った若者にMI6に加入するよう呼びかけた。MI6は、この数年間で多様性に富む職員を3割増員し、職員数を約3500人にする計画だ。