論風

原油、不足から一転過剰へ 来年も不安定な値動き続く

 □日本エネルギー経済研究所常務理事・小山堅

 今月初めウィーンで協議した石油輸出国機構(OPEC)とロシアなどの産油国は、来年初めから原油生産量を今年10月対比で、OPECが日量80万バレル、非OPECが40万バレル、合計120万バレル削減することを決定した。これらの産油国は、半年前の会合で実質増産を決めたばかりである。わずか半年で需給調整の方向そのものが逆転してしまった。それはなぜか。

 ◆OPECの増産があだ

 答えは原油価格の動きを見れば明らかになる。5月に米国がイラン核合意からの離脱を決め、イランへの経済制裁が復活することとなった。大産油国、イランの原油輸出が制裁の下で大幅に減少すれば、国際石油市場の需給はタイト化し、かつ中東の地政学リスクは大きく高まる。市場関係者は需給逼迫(ひっぱく)・供給不足を先読みし、原油価格は上昇トレンドをたどった。10月初めにはブレント原油が86ドルを突破、90ドル超えを予想する声も聞かれた。

 だからこそ、産油国は供給不足の可能性に対処するため、6月の会合で実質増産を決めたのである。しかし、皮肉にもその増産決定で、OPECの生産量は着実に増加、米国シェールオイルの記録的大増産やロシアの着実な生産拡大も相まって、全体の供給が需要の伸びを上回り、石油在庫は増大、市場は供給過剰の方向に転じた。イランの原油輸出についても、米国が主要なイラン原油輸入国に対して、180日の制裁適用除外を発表したため、一定の輸出が認められることになり、大幅輸出削減の可能性が遠のいた。

 また、これまで順調な拡大を見せてきた世界の石油需要の先行きについても、世界経済リスクが不透明感をもたらしている。特に、米中貿易戦争の激化は中国経済の先行きに不安感をもたらし、石油をはじめとするエネルギー需要の伸びの鈍化の可能性が世界のエネルギー関係者の注目の的となった。

 その他、金利上昇下での米国経済の先行きや英国の欧州連合(EU)離脱をめぐる英、欧州経済への影響もダウンサイドリスクとして意識されるに至っている。この状況下、10月から原油価格は下げ足を早め、12月にはブレントで60ドルを割り込むに至った。わずか2カ月で3割の下落である。

 ウィーンに集まった産油国は、現状に対応して原油価格の下落に歯止めを掛け、過剰のさらなる進行を防ぐ必要があった。ガソリン価格の上昇を望まないトランプ米大統領による、産油国の協調減産を牽制(けんせい)する度重なるメッセージにもかかわらず実際に減産を決めたのは、必要に迫られてのことである。

 ◆減産の行方を注視

 120万バレル減産決定発表後、ブレント価格は一進一退の動きとなり、その後、26日には50ドルを割り込む場面もあったが、方向性が定まったとまではいえない。それは市場関係者が以下の点を見極めようとしているからである。

 第1に、120万バレル減産がどれだけ実行されるかである。OPEC側では、来年OPECを脱退するカタール、減産を免除されるベネズエラやリビアの存在があり、計80万バレルの減産がどうなるかが問われる。また、非OPECでは着実に増産を続けているロシアが、23万バレルという減産目標を達成できるのかが注目されている。最終的には、バランサーとしてサウジアラビアがどれだけ踏み込んで減産するかに掛かっているが、合計120万バレルの減産目標には遠く届かないのでは、との見方もある。

 第2は、120万バレル減産が実施できても、それで十分かという点である。この点は、世界経済と需要、米シェールオイル生産、制裁適用除外終了後のイラン原油輸出、地政学リスクなどさまざまな要因で、十分か否かが決まるが、このままだと供給過剰が続く、と指摘する声も多い。来年も油価を左右するさまざまな要因の動き次第で相場観が揺れ動き続ける可能性は高い。

【プロフィル】小山堅

 こやま・けん 早大大学院修了。1986年日本エネルギー経済研究所入所。2011年から現職。英ダンディ大学留学、01年博士号取得。専門は国際石油・エネルギー情勢分析など。59歳。長野県出身。

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