インド人は数字に強い-。インド人を語る際にしばしばついて回る言葉だ。優秀なエンジニアを輩出し、グーグルやマイクロソフトなど世界的なIT企業の幹部にインド人が名を連ねている。「ゼロの概念」を発見するなど、確かに数字や計算と縁が深い歴史を持つインド。理数系が得意とされる評判は本当なのだろうか。(森浩)
作り上げられた「幻想」
「率直にいえば、その指摘は神話だろう」
いきなり身も蓋もない発言だが、首都ニューデリー近郊のハリヤナ州の教科書選定委員でもある数学教師、スナンディタ・ダスグプタさんはこう断言した。私立学校や公立学校で教鞭(きょうべん)をとった経験があるが、「平均で見ると、インドは日本や米国の後塵を拝しているのではないか」と指摘する。
インド教育の特色としてしばしば指摘されるのが、九九が「20の段」まで存在するということだ。州ごとに若干の差異はあるが、8歳で、20×20までのかけ算を暗記するカリキュラムがあるという。「ただ習熟度には相当の差があり、できない生徒も多い」とダスグプタさんは話す。
インドは地域や経済状況によって教育水準の差が激しく、国民全体にあまねく教育が行き渡っている状況ではない。ダスグプタさんは「インド人が『数学や計算に長けている』という幻想は、インドの歴史と先進国に移住した中産階級以上の活躍が作り上げたものだ」と話す。
「歴史」とは、理数系でのインドの業績だ。ゼロの概念の確立は特に有名で、測量に応用される三角法もインドで発展した。15世紀には南部ケララ州で三角関数に関する研究が進んでいたという。
こうしたバックグラウンドに、20世紀初頭に活躍したインドの天才数学者ラマヌジャンらの存在が彩りを添え、「数字に強い」というイメージの一端が形成されたというのがダスグプタさんの見解だ。