その昔、北京の某ラジオ局で仕事をしていた時代、私の住居は中級クラスのアパートメントだった。毎日清掃が入るのはありがたかったが、ある日偶然、とんでもないものを見てしまった。清掃員が私の台所用スポンジに、風呂用洗剤をつけてバスタブをごしごしこすっている。悲鳴をあげる私に「あなたのスポンジを使ったほうが衛生的だと思って」と、不思議そうに首をかしげていた。彼らにも「三分の理」ということか。
こちらには「理」などなく、ただ「面倒だ」ということのようだ。日本のメディアでも多く取り上げられたが、中国高級ホテルの不衛生な清掃実体は、今に始まったことではない。今回これだけ注目されたのは、隠し撮りされたホテルの数の多さと、そのほとんどが超高級ホテルだったことである。告発者が動画をインターネット上にアップすると、閲覧数はあっという間に4.8憶回に上り、コメント数は36万件となった。
確かに衝撃的な映像である。一泊5000元(約8万2400円)という北京の高級ホテルでは、使用済みタオルでコップや鏡を拭いている。上海の一泊2600元のホテルでは、同じブラシで洗面台、コップ、便器を洗っていた。
名指しされたホテルの反応はだいたい同じで(1)謝罪し(2)徹底調査を約束(3)清掃員個人の問題でホテルを代表するわけではない(4)教育を強化する…、という具合である。
清掃は客室という、ある意味密室で行われているのも、改善できない要因だ。中国では「誰も見ていなければ何をしてもいい」という暗黙の習慣があり、時にして無法地帯が出現する。
初めて中国の病院を見学したとき、写真を撮りたかったが、さすがに遠慮した。すると同行してくれた中国の友人が「注意されたら止めればいいよ」と言う。「ダメと言われたらやめる。これが中国のやり方だよ」
タクシーの運転手が、Uターン禁止のところでUターンしようとする。「警官がいなければ何やってもいいんだよ」
高級ホテルでは、清掃の後に客室責任者が清掃状況をチェックして回っている。しかしきれいに磨かれたコップを見て、そのプロセスを知るすべはない。
問題発覚後、中国メディアが「またこれらのホテルに泊まるかどうか」という調査を実施した。それによると、「絶対に泊まらない」と答えたのは22%で、「仕方がない」が17%、「自分のコップを持参する」と答えた人が31%だった。(新浪財経調査)
中国メディアは“高級ホテルのコップ(中国語でコップを意味する『杯具』と『悲劇』は同じ発音)”と憂えているが、悲劇が今後繰り返されないという保証はないのである。