【専欄】中国・知識持つ「海亀」たちの思わぬ受難

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 1970年代、中国の「三種の神器」といえば「腕時計・自転車・ラジオ」だった。80年代は「テレビ・冷蔵庫・洗濯機」となり、90年代の「携帯電話・エアコン・オーディオ」に続き、今では「住宅・車・子供の留学」なのだそうだ。(ノンフィクション作家・青樹明子)

 子供の留学熱は日本人の比ではない。小学生は夏休みの短期留学、高校生・大学生は、当然のように長期留学を選択する。

 海外留学は、明るい未来の象徴である。うまくいけば、留学先で就職し、そのまま永住権を得ることも可能だ。帰国したとしても、条件のいい職を得られ、高額所得も夢ではない。

 しかし、そんな常識が近年崩れている。

 まずは留学生たちが、留学先に留まらず、帰国を選択するようになった。80年の留学生帰国率は39%だったが、2017年は80%である。予測では20年、87%の留学生が帰国するとみられている。理由は中国経済の発展にあって、今や海外よりも中国の方が“チャンス”が多い。

 帰国留学生を中国では「海亀」と言う。語学堪能、高度な知識を持つ海亀たちに、帰国後思わぬ受難が待ち受けていた。

 18年の就職活動生は820万人である。学生にとって就職難が続く中、留学組は給料面で非留学組を下回るという状況に悩まされている。統計によると15年から、国内で修士を取得した学生の月収は、海外の修士を上回るようになった。調査によると8割以上の帰国組が収入は期待値より低かったと述べている。(「2018中国海外留学帰国者就業起業調査報告」)

 なぜこういうことが起きるのだろうか。専門家によると、2つの要因があると言う。

 まずは中国ビジネスの発展速度である。中国の1年は海外の2年とも言われていて、不在期間が長ければ長いほど、変化に追いつけず不利になる。しかも中国のビジネス習慣は特殊なので、海外で学んだことが必ずしも適用できるとはかぎらない。

 2番目は、その特殊な中国企業の文化を簡単に受け入れないという点である。国内の大卒者は、仕事のやり方をただ教えればいい。しかし留学組には、「なぜこうするのか」と教え込むのに時間と労力を要する。その間国内組は、いち早く研修を終え、実際の仕事に就いているのだ。

 コストパフォーマンスで考えても、海外留学は高くつく。それが分かっていても、やはり親は子供を留学させたがり、そのための費用は惜しまない。企業側は、知識は欲しいが企業文化になじまないのは困る、と考える。これは日本企業も直面している矛盾で、グローバル化の時代、人材活用力が問われている。