30日の韓国最高裁判決に困惑しているのは、文在寅(ムン・ジェイン)政権と与党に他ならない。1965年の日韓国交正常化当時の交渉経過を検証し、元徴用工の個人請求権は「解決済み」とする政府見解をまとめたのは、文大統領本人や与党の現代表が中心となった盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権だったためだ。
盧政権は2005年1月と8月に請求権放棄を明記した日韓協定締結当時の外交文書を公開。請求権を持つ個人に対する補償義務は「韓国政府が負う」と韓国外務省が明言していたことも明らかになった。
文書公開に併せて発表した政府見解では、「慰安婦、サハリン残留韓国人、韓国人原爆被害者」は請求権交渉の対象に含まれなかった、と主張。元慰安婦らについては日本側に対応を求める方針を示す一方、元徴用工の賠償請求権については日本が韓国に供与した無償3億ドルに「包括的に勘案された」と明言した。
盧武鉉大統領は同年3月の演説で、「被害者としては、国家が国民個々人の請求権を一方的に処分したことを納得するのは難しいだろう」と交渉当時の韓国政府の対応を問題視した上で、補償問題の解決に韓国政府が努力していく方針を示した。
盧氏の側近として当時、司法に大きな影響力を持つ「民政首席秘書官」を務めたのが文在寅氏。一連の外交文書公開に関する官民共同の対策委を主宰したのは、現在は与党代表を務める李海●(=王へんに賛の夫がそれぞれ先)(イ・ヘチャン)首相(当時)だった。以降、歴代政権も請求権問題は「解決済み」とする見解を踏襲してきた。(時吉達也)