【専欄】「あり得るかも?」の心理が拡散を促した中国版フェイクニュース

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 世界が驚く“トランプ節”だが、中でも多くの人があぜんとしたのは「フェイクニュース」論だろう。自身に批判的なニュースは全てフェイクだと決めつけ、メディアは「国民の敵」と攻撃した。これに端を発してか、世界中でフェイクニュースに注目が集まっている。(ノンフィクション作家・青樹明子)

 流言飛語・風説・デマなどの類は、インターネットの発達で、近年異なる様相を呈し始めた。ネットユーザー数が8億200万人に上る中国では特に顕著だ。ネット上は玉石混交、あらゆるものが存在して、本物と偽物の判断が実に難しい。警鐘の意味もあるのだろう、中国ではフェイクニュースがランキング形式で定期的に紹介されている。

 検索エンジン「百度(バイドゥ)」などが発表した2018年1~3月におけるフェイクニュース1位は、連休前になると出現するという。

 「本年(18年)2月25日よりマージャン店の摘発が強化された。(摘発時に店にいた)60歳以下は一律逮捕され、5日の拘留と罰金(500~1000元らしい)が科せられる」

 この偽情報には、多くの人がだまされた。中央電視台のニュース画面を改竄(かいざん)しているので、一見本物に見える。警察は「違法賭博以外のマージャン店が摘発されることはあり得ない。デマに惑わされないように注意してほしい」と声明を出したが、既に多くの人が閲覧・転載した後だった。

 同テレビ同様、庶民にとって信用度が高いのは、人民日報である。中国版ラインの「微信(ウィーチャット)」が発表する、18年9月のランキング3位は「人民日報発表」という文言から始まった。

 「電子レンジの利用を、すぐさま停止することを推奨する。(中略)ドイツの家庭では、ほとんど電子レンジを使用していない。電子レンジは非常に危険性が高いので、面倒でも鍋を使い、ガスなどで加熱したほうがいい」

 人民日報は「そんなニュースを流したことはない」と即刻否定したが、アクセス数は既に何千万回にも上っていた。

 そして同月の第1位は、私の微信にも回ってきた。

 「公安局は、微信グループチャットの管理を強化した。(中略)各職場において、微信のグループを作成する際は、言論と行動に注意する必要がある。事が起きた場合は、管理人に連帯責任が負わされ、厳格に処罰される」

 公安局は否定したが「あり得るかも?」という心理が、おびただしい数の拡散を促した。

 たとえデマであっても、注目を集め、アクセス数を増やしたいと考えるネット民は、世界的に増えている。IT時代を生きる上での智慧が試されていく。