今世紀中にドイツの人口逆転 フランス、産む国へ100年の執念 (4/4ページ)


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  • 今年5月、ベルリンで保育所増設を求める親たちのデモ(クリスチャン・マーカルト氏撮影)
  • 今年5月、ベルリンで行われた親たちのデモで「保育所なしに、生活なし」と書かれた看板を掲げる参加者(クリスチャン・マーカルト氏撮影)
  • ベルリン人口開発研究所のディネル研究員(三井美奈撮影)

 ベルリン人口開発研究所のスザンヌ・ディネル研究員は、「幼児を預けて働く女性は『悪い母親』と批判されがち。女性はキャリアを犠牲にしないため、出産を遅らせる。罪悪感から、フランスのように割り切ってシッターにまかせることができない」と指摘する。ディネル氏自身、長男を産んだのは38歳の時だ。

 マールトさんはデモの後、「子供の面倒を見るのが母親。あんたはわがままだ」などと書かれた批判メールを数百通受け取った。「女性が職場復帰する権利を訴えても、世間は冷たい」とため息をつく。

 2012年には「母親は子供が3歳になるまで育児に専念すべきか」が国民論議になった。連邦政府が「在宅育児手当」を創設した時だ。保育所増設が追いつかない中、3歳未満の子供を自宅で育てる親に月100ユーロ(約1万3千円)を支給する制度だった。「母親を家庭に縛る」という批判が出て、政府は導入断念を迫られた。判断は自治体に委ねられ、現在はバイエルン州など一部が実施する。

 ■「パパ育休」EU法案 仏は抵抗

 父親の育児休業取得を促すEU法案に、フランスが反発している。

 「両親のワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)」と名付けられた法案は、スウェーデンがモデル。欧州委員会が導入を目指す。両親に各4カ月間の手当付き育休を定め、取らないと権利を失う仕組み。各国に疾病手当並みに高い育休手当を義務付け、父親が仕事を休んでも家計負担が抑えられるようにした。EU主要国の疾病手当は給与の7~9割と高い。

 フランスは、育休手当は月額一律396ユーロ(約5万円)と低い。育児支援を手厚くし、母親に産後、早く職場復帰を促す制度だ。マクロン仏大統領は今春、欧州議会で「指令案の目標はすばらしいが、金がかかる」と反対を表明した。

 「父親育休」促進はドイツも07年に始めた。手当は給与の67%。両親共に取得すれば14カ月で、母親だけ取る場合より2カ月延長できる。この制度で、父親の育休取得率は3%から36%に増えた。

 ただし、父親育休は「少子化の特効薬ではない。意識改革を促すだけ」と、ベルリン人口開発研究所のディネル研究員は指摘する。「保育所が不足するうちは、家計を支える父親がフルタイムで復帰し、母親が育児を担う構造が残る。私の夫も育休を取ったが、その後は仕事を優先した。結局、私が時短勤務に切り替えた」と話す。