100メートル走でいえば、2メートルほど進んだだけの状況にすぎない。核実験などの中止を公式発表した意義をおとしめる必要はないが、非核化の行程を実質的に進展させる中身ではなかった。
発表では豊渓里の核実験場廃棄が表明されたが、北朝鮮は10年前にも海外メディアの前で核関連施設を爆破する“ショー”を行っており、一施設の閉鎖をもって開発中止の保証とすることはできない。豊渓里はすでに過去の実験のダメージで崩壊状態にあり、保存価値もなかった。
「核保有国」の立場を誇示する点もこれまでと変わらない。実験中止の理由は「世界的な核軍縮のための過程」と表現されており、「他の保有国と足並みはそろえるが、一方的な廃棄要求には応じない」とする意思が読み取れる。
北朝鮮の狙いは、27日の南北首脳会談を前に韓国世論を味方につけ、会談でより多くの成果を得ることにある。韓国人の多くは肯定的に評価するだろうが、実際は今後の核開発をやめると言っただけで、現実の脅威である現存核兵器の廃棄には一切言及していない。
北が核開発も同時に進める「並進路線」から経済集中にかじを切ったことは、制裁緩和をより強く求めていくという宣言でもある。薄く切ったサラミを一枚ずつ差し出し対価を得ようとするやり口ではあるが、彼らは非核化に向けた意思を行動で示した。米韓は対北制裁について具体的な対応を求められることになるだろう。(聞き手 時吉達也)