悲願の憲法改正を実現するため安倍は秋の総裁選で3選に挑む。神経をとがらせるのは党内第2派閥を率いる麻生の動きだ。元財務官の黒田を再任せず、消費税増税の凍結を主張する本田を新総裁に選べば、財務省が麻生を盾に3選阻止に動くのではないか。それを避けるため黒田再任は早い段階で既定路線だったというのが高橋の見立てだ。
もっとも、黒田が日銀を率いた5年間で経済は大きく好転した。名目国内総生産(GDP)は13年1~3月期の498兆円から、昨年10~12月期には549兆円に拡大。1月の有効求人倍率(季節調整値)は1.59倍と43年11カ月ぶりの高水準となり、民主党政権時代の就職氷河期は圧倒的な売り手市場に一変した。若年層からの支持は安倍政権が選挙で勝利を重ねる原動力になっている。
今回の人事について、元日銀理事の門間一夫(みずほ総合研究所エグゼクティブエコノミスト)は「現在の金融緩和を続けることで、日本経済を支えてほしいというメッセージが読み取れる」と指摘する。政権基盤の安定を求めるなら、黒田再任は政局の要素がなくても堅かっただろう。
政権と一心同体
ただ、黒田が2%物価上昇目標の実現時期と見込む19年度中に消費税増税が実施されれば、消費は再び冷え込み、日本経済の宿病であるデフレ心理が再燃する。好調な米国経済の後退リスクや20年東京五輪後の需要減退も課題だ。政府が積極的な財政出動で景気を下支えしなければ、4年前の二の舞いになりかねない。