米トランプ大統領の韓国訪問の直後にソウルを訪ね、現地の専門家などと懇談する機会があった。そこでの最大の関心事は10月末に中韓の間で交わされた電撃的な合意文書だった。米国が北朝鮮への武力行使を決断し、韓国に共同行動を求めた場合、韓国は日米韓の枠組みを離れ、中国寄りに態度を変える可能性も出てきたからだ。
なぜ韓国は中国との間で、地上配備型ミサイル迎撃システム(THAAD)の追加配備はしない、などと約束してしまったのか。韓国政府は約束をしていないと否定し、ある専門家も「別に中国側の要求に屈したのではない。中国側の要望を聞いただけだ」と説明していたが、内外から一斉に起きた批判への言い訳にしか聞こえない。
THAAD配備に端を発した中国側からの韓国製品不買や韓国企業への圧迫が、韓国経済に影響を与えたのは間違いない。IT製品など中国が必要とする製品の取引はむしろ増えているが、観光や流通分野では深刻な打撃を被った。韓国系企業の中国撤退の動きまで起きている。これ以上は耐えられないとの判断が働いたのかもしれない。
不思議だったのは、中国から散々痛めつけられても、韓国側からの非難がほとんどなかったことだ。ある専門家は、韓国が19世紀まで華夷秩序(中国の皇帝を頂点とする階層的な国際関係)の中にあり、今もその習性から抜け切れていない、と指摘する。米国との関係はたかだか70年間の「パクスアメリカーナ」だが、中国からの「パクスチャイナ」は500年間も続いた、というのだ。